財産分与の種類と手続きの流れ|分与の対象になる財産の種類も解説
離婚の際に重要になるのが財産分与です。離婚後の生活を少しでも楽にするためには、受取額が減らないように財産分与をする必要があります。
そこで今回は財産分与の種類や手続きの流れを解説します。
財産分与の目的や受取額の相場、注意点について確認してください。さらに分与対象になる財産についても詳しく分かります。
財産分与の基礎知識をまとめて把握できるので、ぜひ参考にしてください。
財産分与とは離婚の際に夫婦が婚姻期間中に得た財産を公平に分配することです。慰謝料とは異なり、民法第768条1項で定められている権利であるため誰でも請求することができます。
婚姻を結んでから離婚するまでに手に入れた財産の多くは夫婦の共有物であるため、別れる際はその財産を得るために成した貢献度によって分けられる必要があります。
そのため財産分与は必ずしも均等な分配を保証しません。貢献度に大きな差がある場合は両者の受取額に差が生じる場合もあるので注意してください。
財産分与の大まかな流れは次のとおりです。
- 分与対象となる財産を洗い出す
- 配偶者と財産の分配について話し合う
- 財産分与の内容を記載した公正証書を作成する
多くの場合、離婚の話し合いと並行して財産分与のやり取りも行われます。そのため共有財産を正式に自分のものとできるのは離婚が成立した後になるのが一般的です。
話し合いで決着しない場合は裁判所を交えて話し合いをする調停で改めて協議し、それでも話がまとまらない場合は裁判で争うことになります。
財産分与をめぐる裁判は離婚以上に複雑な法律知識を必要とするため、弁護士のサポートが欠かせません。
財産分与をするつもりなら実績のある弁護士を早い段階から探すことが重要です。
財産分与には複数の種類があり、財産の受け取り方や財産分与が行われる理由が異なります。
それぞれメリットとデメリットがあるため、種類ごとの特徴を正確に把握しましょう。
不適切なものを選ぶと最悪の場合、財産分与が認められない危険性もあります。
最もシンプルで、広く利用されている財産分与です。婚姻中に2人が得た財産をそれぞれの貢献度に応じて分配します。結婚生活は夫婦2人が協力しないと成り立ちません。
そのため夫が働いて得たお金であっても、妻が家事育児をして家庭を支えていた場合はその貢献を考慮して、夫が得た財を妻が受け取ることができます。
清算的財産分与の名のとおり、離婚に際してそれまで夫婦2人が財産を得るために行った貢献を清算するわけです。
夫婦が得た財産を適切に分配するのが清算的財産分与の目的であるため、離婚の原因を作った有責配偶者でもこの方法を使って財産分与を受けられます。
DVや不貞行為をした本人でも清算的財産分与を請求できます。
慰謝料と誤解しないよう注意してください。
下記の記事では、不貞行為について詳しく解説しています。
⇒不貞行為のトラブルを弁護士に相談するメリットと弁護士の選び方
扶養的財産分与は離婚によって元配偶者の生活が困窮することが間違いない場合に行われる財産分与です。
何かしらの理由で職に就くのが難しいケースなどに一定期間、相手に生活費の支給を請求できます。
この財産分与が認められる代表的な条件は次のとおりです。
- 怪我や鬱病などのために健康を損なっている
- 高齢のために働き口がない
- 仕事を見つけるのに時間がかかる
- 子供の面倒を見るために十分な収入を得られない
財産の受け取りは毎月決まった金額が相手から支払われるかたちで行われます。
具体的な相場は無く、期間は1年~3年になるのが一般的です。
注意したいのは経済的サポートが期待できる親族や再婚相手がいると、扶養的財産分与が認められないことです。
また、以前は専業主婦が多かったため、離婚に際して扶養的財産分与が認められやすい状況でしたが、最近は男女共に結婚後も仕事を続け収入を得るケースが増えたため、認められない場合も少なくありません。
慰謝料的財産分与は慰謝料の支払いとして行われます。
一般的には、慰謝料は金銭で行われますが、慰謝料的財産分与なら土地やマンションといった不動産または有価証券を金銭的慰謝料の代わりとして請求可能です。
離婚で巨額の慰謝料を手に入れるケースが稀にありますが、その多くは慰謝料的財産分与を請求して不動産を取得したと言われています。
慰謝料としての性質が強いため、財産分与を請求される側がDVや不貞行為といった有責配偶者である必要があります。
そのため双方に非の無い離婚において慰謝料的財産分与が行われることはありません。
慰謝料的財産分与をしても支払われるべき慰謝料の金額に達しない場合は、相手に足りない分を金銭で支払うよう請求することもできます。
この財産分与には請求期限が設けられており、離婚成立から2年が経過すると請求できなくなるので注意してください。
婚姻費用とは婚姻中に発生した生活費のことです。夫婦は収入の少ない配偶者の生活を支える必要があるため、生活費を支給する必要があります。
にもかかわらず支給を怠った場合、その分を離婚に際して請求することが可能です。
配偶者の扶養に関しては法律に明記されているため、婚姻費用の支払いについては厳密な取り扱いがされます。未払い期間がわずか数ヶ月であっても請求が認められる可能性は高いです。
婚姻費用の計算は裁判所が提示する婚姻費用算定表が目安になります。
婚姻費用算定表には1ヶ月分の婚姻費用が定められており、夫婦間で事前の取り決めが無い場合は婚姻費用算定表の金額で婚姻費用が算出されるでしょう。
未成年の子供が2人おり、夫の年収が600万円ほど、妻の年収が100万円ほどであれば、婚姻費用は月額10万円ほどになります。
財産分与をするかどうか判断するうえで重要になるのは分与の対象となる財産です。
受け取れる財産がほとんどなければ財産分与を請求する意味は薄いです。
財産分与の対象を厳密に特定するのは専門知識が無いと難しいですが、財産分与の金額を概算できるように代表的な分与対象を確認しておきましょう。
財産分与の対象となるのは婚姻関係を維持している間に夫婦2人が得た財産です。
共有財産と呼ばれるもので、具体的には以下のものが該当します。
- お金(現金および銀行の預金)
- 不動産(自宅やマンションなど)
- 有価証券(株、国債など)
- 保険(積み立て型の生命保険など)
- 動産(車など)
- 年金や退職金
預金に関しては結婚後に得たお金を預けたものは全て財産分与されます。
誤解されがちですが、配偶者に黙って作ったプライベート口座の預金であっても分与の対象になるので注意しましょう。
重要なのは預けるお金を入手した時期です。
結婚後の収入であれば子供時代に作った口座の預金であっても共有財産として扱われます。
車は受け取る側が相手に金銭を支払うか、売却して買取額を分配するのが一般的です。ローンが残っている場合、支払いは受け取る側が行います。
有価証券は受け取る側が相手に金銭を支払うか、換金して分配します。保険は生命保険などの積立型のものが分与対象になります。その場合、解約して得たお金を分配するのが一般的です。
上記の他にも家具やアンティークが分与対象になることがあります。
プロに査定をお願いし、受け取る側が査定額を相手に支払うことになるでしょう。
種類は少ないですが財産分与の対象とならない財産もあります。
財産分与の目的は結婚生活の中で得た財産の分配であるため、婚姻する前に得た財産は分与対象から外れます。
分与対象にならない財産は特有財産と呼ばれ、次の条件を満たす財産が該当します。
- 結婚前に得たお金や貯めた貯金
- 結婚前に購入した家財道具
- 贈与で貰い受けた物
- 別居した後に得た財産
贈与で貰い受けた物とは親が亡くなった後に引き継いだ遺産や、生前贈与などで受け取った財産のことです。
これと別居後に得た財産については結婚後でも特有財産として扱われます。ただし、特有財産だと証明できる証拠が必要になるので気をつけましょう。
贈与である場合は贈与契約書や遺産分割協議書を用意することになります。
他にも法人名義の財産や子供名義の財産に関しては、どちらも夫婦のものではないため分与対象になりません。
財産分与では住宅ローンのようなマイナスの財産についての取り決めも行います。
財産は当事者が分配するのが基本ですが、マイナスの財産については、どちらかが残債を支払うことが多いです。
どのような支払い方法があるのか確認しましょう。
離婚後も住宅ローンの名義人がそのまま住み続ける場合は、名義人が残債を支払います。
物件の名義人とローンの名義人が同一である場合は、最もシンプルで問題が生じる危険性が低い支払い方法です。
途中で物件を手放すことになっても、全ての手続きを好きなタイミングで行えるため迅速に対応できます。
注意したいのは元配偶者がローンの名義人になっているものの、自分が連帯保証人になっている場合です。
離婚後、相手が支払い不能となったら返済を肩代わりすることになります。
離婚後、別れた元配偶者がローンの名義人になっている物件に住む場合でも、残ったローンの支払い義務があるのは配偶者です。
仮に配偶者がその物件以外のところで生活していても、ローンを支払う義務を負うのは配偶者になります。
返済だけ負わされる配偶者が一方的に不利なように思えますが、子供を引き取った相手が経済的に困窮しないように配慮して、こういった選択をするケースもあります。
ローンを払わずに家に住めるためメリットばかりのように思えますが、家の所有権が無いため、いつ自宅から出ていくことになるか分からないリスクがあるので注意しましょう。
共同名義になっている場合の支払いは事前に決めた持分割合などに従って行うか、借り換えローンを利用して既存のローンを返済し、住宅ローンの名義人を単独のものに変えます。
また、共同名義で住宅ローンに申し込んだ場合は安易にその家から出ていけません。
住宅ローンの契約で契約者はどちらも当該住宅に住むことが明記されていることが多いため、どちらかが強引に出ていくと契約違反に該当するリスクがあります。
今後のことを考慮するなら返済額が少し増えてでもローンの借り換えを行って、単独名義に変更すべきでしょう。
財産分与には複雑な法律が数多く絡み合うため、トラブルが起きやすいです。
代表的な注意点をこれから取り上げるので、ぜひ確認してください。
財産分与が原因で起きる厄介なトラブルを回避するのに役立ちます。
財産分与ができる期間は、離婚が成立してから2年間と決まっています。2年が経過すると、それ以降は財産分与の申請をしても受け付けてくれません。
2年と聞くと長いように感じますが、財産分与の協議がうまくいかずに裁判にまで発展すると解決するまでに平均17.7ヶ月以上かかると言われています。
離婚が確定した後に財産分与の話し合いを始めた場合、協議が長引くと時効をむかえてしまう危険性があります。
時効が成立しないように、離婚が決まる前から財産分与の話し合いを始めましょう。
また、財産分与の時効は除斥期間です。そのため財産分与を望まない相手方が時効をむかえたと主張しなくても時間がくれば自動的に時効が成立します。
財産分与を望む側にとっては厳しい条件といえるでしょう。
共有財産の扱いに関しては夫婦の合意のもと行われる必要がありますが、それを無視して勝手に自宅や車といった共有財産を買取に出してしまう配偶者もいます。
こういった裏切り行為は相手に黙って行われることが多いので対策をしていないと防ぐのは難しいです。
勝手に共有財産を売却されないようにするには、民事保全法に定められている「仮差押え」を活用しましょう。
仮差押えを家庭裁判所に申し立てれば、係争中の物件として扱われるため不動産業者が取引するのを避けるようになります。
ただし、仮差押えには担保金を用意する必要があります。
お金を工面できない場合は、弁護士や法テラスといった法律相談に話を聞いて対処法を教えてもらいましょう。
離婚に備えて普段から自分の財産を隠している配偶者は少なからずいます。年間の離婚件数が40年前に比べて1.25倍となっていることからも分かるように離婚は珍しいことではありません。
財産分与をするなら、配偶者が財産を隠ぺいしている可能性も十分に考慮すべきです。調査をしなければ本来受け取れるはずの財産を相手に渡すことになります。
対策として配偶者の財産を洗い出しましょう。まずは個人でできる次の調査方法を確認してください。
- 預金通帳を調べる
- 給与明細や確定申告書で収入を確認
- 証券口座の明細
- 不動産登記簿謄本で不動産を確認
- 生命保険の証券
配偶者が離婚を警戒している場合、上記の書類を管理して財産ごと隠ぺいすることがあります。そうなると個人の力で相手の財産を洗い出すことはできません。
自分の手におえない場合は最終手段として離婚裁判を起こし、調査嘱託申込書を提出しましょう。
裁判所が配偶者の銀行口座や退職金の額といった財産関連の情報を調べてくれます。
財産分与では住宅ローンのようなマイナスの財産も対象になりますが、ギャンブルで作った借金については対象になりません。
過去の判例を見る限りギャンブルで得たお金は夫婦の共有財産としてみなされます。なぜなら夫婦が協力して得たお金でギャンブルをしているからです。しかし、ギャンブルで作った借金に関しては分与されることはありません。
そのため配偶者がギャンブル依存症で借金があっても、借金返済の義務を負うことなく家や土地などを対象に財産分与を申請できます。
財産分与には法律関連の難しい知識が必要になります。
個人で対処するよりも専門知識と財産分与を数多く取り扱ったことがある弁護士にサポートをお願いしましょう。
高額な弁護士費用に見合うだけの価値があるか分からず決断できない場合は、これから紹介する弁護士に財産分与のサポートをお願いするメリットを参考にしてください。
弁護士に依頼すれば財産分与の対象になる財産を正確に特定してくれます。
夫婦が所有している財産が分与の対象かどうか正確に判断するのは簡単なことではありません。
財産の種類だけでなく、購入方法や使われ方も法律や判例に照らし合わせて考慮する必要があるため、高度な法律知識が必要です。
また、相手が隠している財産を見つけ出せないと巨額の共有財産を見逃してしまうでしょう。
弁護士なら所有する分与対象の財産を特定するだけでなく、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託を適切に利用して共有財産をリストアップしてくれます。
弁護士に財産分与の交渉を一任すると、相手に法定離婚事由がある場合などに協議を上手くリードして相場より多くの財産を受け取れることがあります。
財産分与では配偶者と共有財産を2分の1に分けるのが一般的です。
2分の1ルールと呼ばれるもので、一般の方が個人で財産分与をした場合、これ以上受け取れる可能性は低いです。
一方、弁護士は財産分与の勘所を知っているので、特定されていなかった共有財産を指摘するといった交渉術を巧みに使いこなして受取額を増やしてくれる場合があります。
協議で合意できず離婚調停になった場合は調停委員や裁判官へ与える印象も重要になります。
そういった点でも弁護士は上手く立ち回ってくれるので、裁判官が審判を提案した場合に、こちらに有利な判断がされやすくなるでしょう。
弁護士に依頼すれば手間のかかる書類作成や裁判所や自治体への申請から開放されるので、財産分与にかかる心身の負担が大幅に軽くなります。
自分1人で財産分与の手続きをしようとすると、数多くの書類作成や申請に加えて、配偶者との厳しい交渉にも応じる必要があるため大きな負担になります。
さらに相手の財産に関する情報集めや情報の精査があるので、休む暇がありません。
会社勤めをしながら財産分与を自力で進めるのは厳しいです。何の知識もなければ何度も裁判所に申請書を提出したり、交渉が上手くいかず精神的に疲弊するでしょう。
弁護士が代わってくれれば負担が軽くなるだけでなく、前述の作業に費やしていた時間を使って新しい生活の準備ができます。
財産分与のことを詳しく知るために、財産分与に関するよくする質問とその答えを確認してください。
財産分与で受け取れる金額の相場や、ずっと専業主婦をしてきた女性でも申請が認められるのかなど、気になる内容をお伝えします。
- 財産分与はいつすべきですか?
- 財産分与は離婚手続きと並行して行うことが多いです。
これまでの結婚生活で得た財産の多くは共有財産であるため、財産分与は避けて通れません。
また、時間が経つと相手の財産を把握するのが困難になる場合や財産分与の時効をむかえてしまう危険性もあります。
離婚を決心してからすぐに財産分与の準備を始めても早すぎることはないでしょう。
離婚後に財産分与をする場合は時効と連絡手段に注意しましょう。
元配偶者に会うのを避けられる場合もあります。
いくら電話をしても応じず、どこに住んでいるか分からないと交渉の機会が持てません。
離婚当初とは心変わりして財産分与に否定的になる危険性もあります。
財産分与を遅らせるメリットは薄いため、弁護士に依頼して離婚と一緒に手続きを進めましょう。
- 財産分与で受け取れる金額の相場は?
- 財産分与で受け取れる金額は、夫婦2人がそれまで得た財産に依存するため相場はありません。
参考までに令和2年に成立した調停または審判における財産分与の金額を紹介すると、約23%が100万円以下で、400万円以下に約半数が収まっていました。
1,000万円を超えたケースは約17%です。
世帯収入が平均以下なら、財産分与で受け取れる金額は400万円以下になると判断していいでしょう。
熟年離婚の場合はそれまで蓄えてきた財産が大きいため、財産分与を請求して受け取れる金額が30代・40代よりも高くなりやすいです。
先ほど挙げた令和2年の財産分与の事例でも、婚姻期間が20年を超える夫婦は分与額が1,000万円前後になる夫婦が他の世代よりも多く確認できます。
- 専業主婦でも財産分与を受けられますか?
- 専業主婦や主夫でも、家事や育児などで財産を築くのに貢献してきたと判断できる場合は財産分与を受けられます。
共有財産の分配割合は財産形成への貢献度によって決められますが、貢献度の評価方法が以前と変わっているので注意してください。
これまでは家事労働の財産形成に対する評価が低く、50%を下回っていましたが、近年は家事の貢献が見直されて50%と評価されます。
専業主婦でも水準並みの財産分与を受け取れるでしょう。
財産分与で受け取れる金額は共有財産の額に依存するため、いかに相手が所有している財産を見つけ出すかが重要です。
個人が隠し持っている財産を洗い出すなら弁護士が頼りになります。弁護士会照会や裁判所の調査嘱託を利用して配偶者が秘密にしていた銀行口座や株式、不動産を特定できます。
財産隠しは罪にならず、時効を過ぎれば損害賠償請求もできません。
財産分与を請求する時点で配偶者の隠し財産を見つける必要があるので、職権を行使して特別な調査ができる弁護士に依頼しましょう。