養育費の弁護士費用の相場|費用を払えない場合の対処法も分かる
離婚後の生活を安定させるために養育費は欠かせません。しかし、金額だけでなく支払い方法や期間など様々な要素が絡み合うため、養育費を請求する際は弁護士のサポートが必要です。
そこで今回は養育費の請求を弁護士に依頼する場合の費用について解説します。
養育費の請求にかかる弁護士費用は依頼タイミングによって異なるため、離婚手続きと一緒に請求する場合と、離婚後に請求する場合、それぞれの弁護士費用の目安を取り上げます。
高額な弁護士費用を支払えない場合に頼れる制度についても解説するので、経済的な理由で弁護士を利用できない方は参考にしてください。
弁護士費用を誰が支払うかは状況によって異なります。どういったケースで誰が払うのか解説しましょう。
養育費をめぐる裁判で勝利すれば、費用を全額相手に任せられると考えている方も多いので、この項目を読んで養育費の弁護士費用に関する正しい基礎知識を確認してください。
原則として、弁護士費用は依頼をした本人が支払います。たとえ配偶者が法定離婚事由に該当するような行為をして離婚の原因を作ったとしても、それだけで相手に弁護士費用を強制的に支払わせることはできません。
また離婚裁判で自身の主張が認められ、養育費が支払われることに決まっても相手に弁護士費用を支払わせることは難しいです。
離婚後に養育費を請求するケースでは、後述する損害賠償請求で勝訴した際に適用される弁護士費用の請求が認められないため、状況はより厳しくなるでしょう。
養育費だけを争う裁判では、弁護士費用を自分で工面する必要があります。
弁護士費用は依頼者が支払うと説明しましたが例外もあります。
離婚裁判で不倫やDVなどに対する損害賠償請求が認められると、被告が支払う金額の10%まで弁護士費用を請求できます。
損害賠償請求が認められた場合に弁護士費用を請求できる理由は、法律違反の被害を受けた本人が損害賠償請求の裁判を提起する際に弁護士のサポートが欠かせないからです。
法律違反を特定し、その成立要件が満たされることを裁判で示すことは法律の専門知識が必要なため、一般の方には対処できません。
被害者が自分だけで問題に対処できないことに配慮して、得た金銭に比例した請求ができる制度になっています。
この制度で弁護士費用の請求ができるのは裁判をした場合だけです。
話し合いや調停で慰謝料や養育費の支払いが決まったケースには適用されません。
損害賠償請求の裁判で勝った場合は、相手に弁護士費用を請求できると説明しましたが、その他の裁判では勝訴しても弁護士費用を請求することはできません。
裁判で勝った場合に請求できるのは訴訟費用です。民事訴訟法第61条において敗訴した者が訴訟費用を支払うとされています。ただし全額請求できるケースは滅多にありません。多くは原告と被告が裁判所が指定する割合で分割して支払うことになります。
訴訟費用に該当するのは裁判を提起するのにかかった費用で、民事訴訟費用等に関する法律に詳しい記載がありますが、代表的なものは次の5つです。
- 提起するための手続きで支払った手数料
- 訴状やその他書類を作成するのにかかった費用
- 証人などに支払った交通費や日当
- 各種申請書などを郵送する際の費用
- 証拠集めを業者に委託した場合の費用
なお、裁判を起こしても途中で和解した場合は訴訟費用を請求できないので注意してください。
弁護士費用を全額相手に支払ってもらうには、協議や調停において相手の合意を得る必要があります。
話し合いの場を設けて、相手が弁護士費用の支払いを了承するよう説得します。
弁護士費用を相手に請求する裁判を提起するのは現実的ではありません。先述したとおり、弁護士費用は依頼者が支払うのが原則です。
相手が弁護士費用の支払いを拒否しても、どの法律にも違反しないため裁判の争点にはなりません。
交渉の方法は2種類あります。1つは2人で話し合って、相手に弁護士費用を支払うよう説得することです。
高額な弁護士費用を無条件で負担してくれるとは考えにくいため、交渉を有利に進めるカードが必要になります。相手に離婚の原因がある場合は慰謝料請求が有効なカードになるでしょう。
もうひとつの交渉方法は調停や裁判における和解です。ただし、裁判官が介入するため全額請求するのは難しくなります。
養育費の弁護士費用は依頼内容によって金額が大きく変わります。
離婚の状況は人それぞれ異なるため、単純に相場を比較することはできませんが、ここでは次の3つのケースにおける相場を解説します。
離婚手続きのサポートを弁護士に依頼する際、一緒に養育費の請求をお願いすることもできます。養育費は離婚問題の争点のひとつであるため、安心して任せられます。
離婚手続きと一緒に依頼した場合の弁護士費用の内訳と、それぞれの費用相場は次のようになります。
相談料 | 無料~1万円ほど |
着手金 | 20万円~60万円ほど |
報酬金 | 20万円~30万円(養育費が認められた場合は追加費用が上乗せされます) |
相談料は初回に限り無料となることが多いですが、それ以降は1回あたり5,000円~1万円ほど請求されるのが一般的です。
費用を抑えるために、質問内容を事前にまとめて初回の無料相談で疑問点を解消しましょう。
着手金は協議から裁判に進む際、それぞれの手続きで発生するので注意しましょう。離婚協議では20万円~60万円程度請求され、離婚調停に進むとさらに20万円~30万円、離婚訴訟になると着手金だけで合計60万円ほど支払います。
報酬金は目的が達成された場合に必ず支払うことになる基礎報酬と、得た養育費の金額によって支払い額が決まる成果報酬の2つかから構成されます。
それぞれの相場は基礎報酬が20万円~30万円ほどで、成果報酬が養育費2年~5年分の10%~20%です。
離婚が決まった後に養育費を請求した場合の弁護士費用は、離婚手続きが省略されるため安くなります。
こちらも内訳から見ていきましょう。
相談料 | 無料~1万円ほど |
着手金 | 10万円~40万円ほど |
報酬金 | 認められた養育費(2年~5年分)の10%~20% |
相談料は離婚と一緒に請求するケースと同じです。相談内容にかかわらず常に相場に近い金額になるのが一般的です。
着手金は離婚手続きと同時にする場合に比べて半分以下になることもあり、多くは10万円~20万円に収まります。
ただし、両者の話し合いで相手と合意に至らず養育費請求調停や審判に進んだ場合は追加の着手金が発生するので注意してください。
追加の着手金の相場も10万円~20万円ほどで、難航すると合計で40万円以上請求されることもあります。
報酬金は成果報酬だけで、相場は支払いが決まった養育費の2年~5年分の10%~20%です。
養育費は月ごとの支払い額で取り決めすることが多いため、養育費の月額ごとに成果報酬がいくらになるか紹介しましょう。
養育費の月額 | 成果報酬 |
---|---|
3万円 | 7万2000円~36万円ほど |
5万円 | 12万~60万円ほど |
10万円 | 24万円~120万円ほど |
離婚手続きと同時に養育費の取り決めを行っても、その約束どおりに養育費が支払われないことがあります。その場合は未払い分を相手に請求できます。
未払い分の請求を弁護士に依頼する場合、弁護士費用の内訳と各項目の相場は次のとおりです。
相談料 | 無料~1万円ほど |
着手金 | 5万円~20万円ほど |
報酬金 | 回収金の10%~20% |
着手金は養育費の取り決め内容を証明できる書類(債務名義)の有無で大きく変わります。
債務名義がある場合はすぐに強制執行の手続きに進めるため、着手金は5万円~20万円で収まります。
代表的な債務名義は次の4点です。
- 公正証書(執行認諾文言が記載されているもの)
- 調停調書
- 審判書
- 和解調書または判決正本
債務名義が無い場合は相手との交渉が必要となるため、その分着手金は上乗せされます。調停や審判が行われることになれば、その都度10万円~40万円ほどの着手金を請求されるでしょう。
離婚が確定した後に養育費を請求するケースと同じ金額にまで着手金が膨れ上がる可能性があります。
報酬金は未払い分の養育費のうち回収できた金額の10%~20%ほどになります。
仮に7歳の子供1人の未払い養育費60万円を強制執行で回収したとすると、その場合の弁護士費用の合計は22万円ほどになるでしょう。
高額な弁護士費用を無駄にしないためにも、養育費の請求に強い弁護士に依頼することが大切です。
どういったところに着目すれば頼れる弁護士を見つけられるのか、選び方のコツを解説しましょう。
受け取れる養育費を増やすことにもつながります。
まず最初に重視すべきは養育費の請求を得意としていることです。弁護士や弁護士事務所はそれぞれ得意分野が異なります。
依頼者の多くは実績を重視するため、それに応じるように弁護士は自分の得意ジャンルを決めて、その分野に注力します。
養育費を確保したいなら離婚や養育費の回収に強みがある弁護士を選びましょう。
弁護士の実績を確かめる方法は複数ありますが、離婚や養育費の請求に関する書籍を執筆もしくは監修していることも判断材料のひとつです。
出版社は売れる本を出版したいため、その分野で知名度の高い弁護士に執筆や監修を依頼します。
弁護士の名前で検索して書籍が出てくるようなら水準以上の実力と実績があると判断していいでしょう。
養育費を請求するケースは1つではありません。
離婚に際して条件の1つとして請求する場合、離婚後に収入が減り養育費を請求するケース、未回収分の養育費を回収するなど様々な状況が考えられます。
そのため状況に合わせて柔軟に対応できる弁護士に依頼することが大切です。
弁護士の対応力を判断するには公式サイトや弁護士が運営するブログなどを参考にしましょう。
自身が担当した養育費の請求に関する記事が数多く掲載されているなら対応力が期待できます。
養育費を請求する場合、相談者と配偶者の関係だけでなく詳細な家庭事情を把握することが大切です。
そのためには相談や依頼後のやり取りにおいて、弁護士が丁寧に依頼者の話を聞き、適切な質問で不明点を残さないことが求められます。
相談者とのコミュニケーションに問題がある弁護士は、依頼者との情報共有が上手くできないため、十分な養育費を得られなかったり、想定していた以上に面会交流の機会を確保されるなどの好ましくない結果に終わる可能性があるでしょう。
依頼者の話に耳を傾けてくれる弁護士を探してください。
相手に養育費を請求してから実際に支払われるまで3ヶ月~1年ほどかかるのが一般的です。弁護士の対応が遅いとさらに時間がかかるため、迅速に動いてくれる弁護士を選びましょう。
また、養育費は不貞行為やDVの慰謝料とは異なり時効が無く、子供が未成年であれば必要な時に請求できますが、支払いが遅れればそれだけ苦しい生活に耐える時間が長くなります。
そういった事情にも配慮して、迅速な支払いを求めるケースでは、それに応じた選択肢を適切に提案してくれることも重要です。
積極的に動いてくれる弁護士かどうか判断するには、実際に問い合わせるのが一番です。
電話に出ない、2日経過しても問い合わせのメールに返事がこないような弁護士は避けましょう。
養育費の弁護士費用は多くのケースで10万円以上となり、高額な場合は60万円を超えます。
出費を抑えるためには養育費の未払いを起こさないことが大切です。
これから未払いの予防や、未払いが起きた時の負担軽減につながる3つの対処法を解説するので、できることを確認してください。
養育費が支払われないと生活が成り立たなくなる危険性があるため、未払いが起きた時に備えて養育費保証サービスを利用しましょう。
養育費保証サービスに加入すれば、元配偶者が養育費を支払ってくれない場合に立て替えてくれます。
養育費保証サービスでは民間企業が元配偶者の連帯保証人となるので、未払いが起きた際は迅速に対応してくれます。弁護士に未払い分の請求をお願いすると最短でも3ヶ月ほどかかります。
迅速な生活支援を期待するなら養育費保証サービスが頼りになります。
さらに立て替えたお金の回収を保証サービスが行ってくれるところも魅力的です。
養育費は長期に渡って毎月3万円~10万円ほどの支払いを要求されるため、相手が請求を受け入れないケースも少なくありません。
そんな時に交渉の切り札となるのが面会交流権です。面会交流権とは親権を獲得できなかった配偶者が定期的に子供と会える権利のことです。
相手が子供と定期的に会いたいと考えているなら、面会交流権は強力なカードになります。
DVが原因で離婚する場合、元配偶者と子供が会うことに抵抗感を覚える親権者も多いですが、その場合は会う頻度を少なくするなどの対策をしたうえで面会交流に応じましょう。
子供に定期的に会うことで、相手が支払いに前向きになるメリットもあります。
養育費について取り決めをした場合は、必ず債務名義を作成してください。
取り決めをした直後は子供に対する愛情が強く、養育費の支払いに応じやすいですが、時間の経過とともに考えが変わることがあります。
債務名義があれば調停や裁判を経ることなく強制執行の申し立てができます。支払いを拒否する相手の銀行口座や給与、有価証券、売掛債権などの財産を差し押さえ、そこから未払い金の回収ができるでしょう。
もし債務名義を紛失してしまったら再発行を申請してください。
公正証書や調停調書、審判書などは書類を保管している役場や裁判所に原本が保管されていれば、いつでも再発行が可能です。
養育費を請求したくても弁護士費用を用意できない場合でも、支援制度や民間のサービスを使って必要なお金を工面できる可能性があります。
弁護士費用の支払い負担を軽くする方法と併せて紹介するので、弁護士費用の支払いに不安があるなら、この項目の内容が役に立ちます。
法テラスは広く法律サービスを国民に利用してもらうことを目的に作られた機関です。経済的に余裕が無い方でも弁護士のサポートを受けられるように民事法律扶助と呼ばれる制度を提供しています。
民事法律扶助を利用すれば相場よりも抑えられた報酬基準が適用されるため、通常の料金よりも安く弁護士に依頼できます。
さらに弁護士費用を法テラスが依頼者に代わって立て替えてくれるので、初期費用が無料になります。
支払いも優遇されており毎月1万円を払うだけでよく、利息もかかりません。
預貯金が不十分で弁護士費用を一括で支払うのが難しい場合は、分割払いに応じてくれる弁護士を探しましょう。
総支払額を減らすことはできませんが、月々の支払いを可能な限り抑えてもらうことで養育費の請求を依頼できるようになります。
分割払いに応じると明記されていない弁護士や法律事務所でも、事情次第では対応してくれる場合があるので問い合わせてみてください。
全ての支払いを分割にできなくても着手金だけ応じてくれることもあります。
弁護士によっては慰謝料や養育費の請求で大きな成功報酬が期待できる場合に、着手金を受け取らずその分を成功報酬で請求することがありますが、成功報酬が高額になりやすいので注意してください。
弁護士保険とは弁護士費用の全額または一部を支払ってくれる保険のことです。
高額な弁護士費用を請求された場合でも弁護士保険に加入していれば、契約書に記載された上限額まで保険金が支払われます。
離婚手続きと養育費の請求を同時に依頼すると弁護士費用が高額になりやすいため、離婚に関連した問題をまとめて解決したい場合は利用するといいでしょう。
弁護士費用を工面するのに役立つ保険ですが1つ注意点があります。弁護士に依頼する内容によっては保険を契約した後、しばらくは保険の支払いが行われません。不担保期間と呼ばれるもので、この期間中に発生した弁護士費用は保険の対象外になります。
離婚訴訟も不担保期間が適用されるため、離婚を考えている場合は早めに弁護士保険に加入しましょう。
養育費を請求する場合の弁護士費用に関する知識を深めるために、養育費や弁護士費用についてのよくある質問を見ていきましょう。
- 法テラスの民事法律扶助にはデメリットがありますか?
- 婚姻関係の無い相手に養育費を請求する場合はいくらかかりますか?
- 認知が無い場合の弁護士費用は相場より高いですか?
養育費の請求は必ずしも婚姻関係を結んだ相手に対してするわけではないため、様々なケースにおける養育費の請求について確認することをおすすめします。
法テラスの民事法律扶助を利用すると弁護士費用を抑えられますが、扶助が認められるには審査をパスする必要があります。審査時間は利用者によって異なるため、問題があると審査に時間がかかります。
審査結果が出るまでは弁護士に養育費の請求を依頼できないので、養育費が支払われるまでに通常よりも遅れる可能性があります。
選べる弁護士が限られることも問題です。民事法律扶助を申請すると法テラスで働く弁護士か、契約している弁護士にしか依頼できません。
養育費の請求を得意とする弁護士に支援を頼めないこともあるでしょう。
未婚であっても相手が子供を認知したのであれば養育費を支払う義務が生じます。養育費を請求する場合、手続きは婚姻関係にあった夫婦が離婚後に養育費を相手に請求する場合と同じです。
相手と離婚の条件について話し合い、まとまらない場合は調停、審判、裁判と進めて行きます。
婚姻関係の有無で弁護士の仕事内容は変わらないため、弁護士費用も両者で違いはありません。具体的な弁護士費用の相場が知りたければ、婚姻関係にあった夫婦の事例を参考にしてください。両者共に離婚に関する手続きがないため、同じような金額になります。
具体的な例を見ていきましょう。
未婚の女性が弁護士に依頼して月額7万円の養育費を得た場合、その弁護士費用は40万円ほどになります。
内訳は着手金が22万円、報酬金が18万円程度です。
認知されていない子供に対して養育費を請求することはできません。法律上、認知されていない子供は親子関係が確かでないため、養育費を請求しても認められることはできないでしょう。弁護士に相談しても養育費を請求するのは難しいと言われるだけです。
認知されない子供の養育費を受けるためには、相手の子供であることを証明する必要があります。相手が頑なに認知を拒むなら強制認知の手続きを申請しましょう。DNA鑑定を用いて親子関係を明らかにできます。
強制認知にかかる費用は手数料13,000円とDNA鑑定費用10万円ほどです。
離婚と同時に養育費の請求を依頼すると弁護士費用は80万円前後になることもありますが、養育費は長期に渡って支払われるものであるため、弁護士費用が高額になっても早い段階で決めておきましょう。養育費が支払われる期間が長いほど受取額が増えます。
弁護士費用が高額な場合は法テラスの民事法律扶助がおすすめです。審査がありますが、相場よりも安く弁護士の支援を受けられます。
弁護士費用に悩まないためには養育費の未払いを防ぐことが重要です。債務名義を作成して、万が一の時は強制執行できるようにしましょう。
相手は財産の差し押さえを恐れるため、未払いが起きにくくなります。