交通事故の被害者は弁護士をつけると有利?依頼すべき理由とタイミング、費用倒れを避ける方法を解説
警察庁によると、令和4年度の交通事故件数は30万件以上と高止まりを続けています。被害者の中には、心身に重大な後遺症を負い、その後の人生が一変してしまった方も少なくありません。
交通事故から立ち直るのには時間がかかる一方、加害者や保険会社との交渉や法的手続きなど、その後の対応も避けては通れません。
しかし、被害者を救済する体制はいまだ十分とは言えず、法的な知識なしには適切な補償を得ることが難しいという課題があります。
交通事故の被害者にとって頼りになる相談先の一つが「弁護士」です。この記事では、弁護士に依頼すべき理由やそのタイミング、費用倒れを避けるためのポイントを解説します。交通事故の被害に対する正当な補償を受けるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
交通事故の被害者は弁護士に依頼した方がいい?
交通事故に遭うと、被害者は身体的にも精神的にも大きな影響を受けます。こうした被害から立ち直るためにも、適切な補償を受けることが重要です。
しかし、交通事故における示談交渉や法的措置は複雑なため、思ったような慰謝料が得られないケースも少なくありません。病院での治療を続けながら自力で対処するのは困難なことも多いでしょう。
交通事故の被害者が弁護士に依頼すれば、包括的なサポートを受けられ、手続きにかかる手間や負担を軽減できます。加害者や保険会社との交渉や裁判上の手続きを任せることで、心身の回復に集中することも可能になります。
弁護士は被害者の味方であり、被害者の利益を最大限尊重します。適切なタイミングで依頼すれば、より有利な立場で交渉することができるでしょう。
被害者の約4割が交通事故の法的手続きに問題を感じている
内閣府が実施した「交通事故の被害者に関するアンケート調査」によると、交通事故で困ったこととして「示談交渉や民事訴訟などの負担」を挙げている人が38.5%に上りました。示談交渉や民事訴訟は日常生活では馴染みのない手続きであるため、被害者自身が行うにはハードルが高くなっています。
さらに、事故後問題を感じた事柄は「事故の相手方(加害者)との関係」が45.2%と1位にランクイン。次いで「保険会社や相手方の弁護士との関係(38.3%)」が上げられ、広い意味での加害者側とのやり取りに悩む被害者が多いことがわかっています。
こうした問題を解決するのが、法的な専門家である弁護士の存在です。交通事故の被害者の負担を軽減でき、相手との関係を一手に引き受けてくれます。
交通事故の被害者が弁護士をつけるべき7つの理由
交通事故の被害者が弁護士をつけるべき理由は主に7つあります。
- 慰謝料増額の可能性が高まる
- 保険会社や相手の弁護士との交渉を任せられる
- 後遺障害等級認定のアドバイスがもらえる
- 過失割合の交渉ができる
- 必要な治療を継続できる
- 適切な休業損害の補償を受けられる
- スムーズな解決に繋がる
それぞれの理由について、被害者救済の制度の内容にも触れながら詳しく解説します。
慰謝料増額の可能性が高まる
交通事故被害を弁護士に相談すると、加害者や保険会社からもらえる慰謝料の額を増やせる可能性が高まります。
交通事故の被害者は、被害の大きさや影響に応じて慰謝料を受け取ることができます。慰謝料は損害による精神的苦痛に対して支払われる補償であり、被害状況が深刻であるほど、受け取れる額も増えます。
交通事故でもらえる慰謝料には次の3種類があります。
入通院慰謝料 | 交通事故を原因とした治療・通院に伴う身体的な苦痛あるいは精神的な負担に対して支払われる慰謝料 |
後遺障害慰謝料 | 交通事故を原因として受けた障害が、その後も継続して影響を及ぼす場合に支払われる慰謝料 |
死亡慰謝料 | 交通事故によって被害者が死亡した場合に、経済的損失や精神的苦痛に対して支払われる慰謝料 |
しかし、交通事故における慰謝料の算定は複雑で、想定よりも低額の慰謝料を提示されることも少なくありません。何も手を打たずに相手の言いなりになってしまうと、不利な条件で交渉が終了してしまう可能性があります。
弁護士に依頼するとより高い慰謝料の受け取りが期待できます。これには慰謝料の算定方法が関係しています。
自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
・自動車を運転する人が必ず加入する保険において適用される算定基準・国の救済措置・最低限の補償のみ | ・自動車を運転する人が任意に加入している保険において適用される算定基準・保険会社によって基準が異なる | ・裁判所の判例を元に適用される算定基準・日弁連交通事故相談センターが公表している・法的知識が必要 |
自賠責基準は強制加入の保険による最低限の補償しか受けられません。任意保険基準では、保険会社によって基準は異なりますが、そこまで高い慰謝料は期待できないでしょう。
弁護士基準は判例に沿った基準であり、最も高い慰謝料が望めます。場合によっては、自賠責基準や任意保険基準の2〜3倍の慰謝料をもらえることもあります。ただし、弁護士基準を利用できるのは弁護士に依頼した場合に限られます。
保険会社や相手の弁護士との交渉を任せられる
慰謝料を受け取るには、保険会社や相手の弁護士と交渉をする必要があります。事故発生から解決まで何度もやり取りを重ねることとなり、被害者にとっては大きな負担になってしまいがちです。
特に、事故による怪我や障害の治療をしながら、相手方との交渉を続けていくのは非常に困難です。慰謝料の提示額や算定基準などで揉めると、解決までの期間が長引いてしまう恐れもあります。
法律の専門家である弁護士であれば、保険会社や相手の弁護士との交渉を任せられます。相手は加害者側の利益を保護しようとするため、被害者が自力で交渉するのはかなりハードルが高いと言えます。
一方、弁護士は説得力のある交渉で被害者を有利な立場に導き、慰謝料の額を最大化できます。
後遺障害等級認定のアドバイスがもらえる
交通事故による怪我が完治せず、後遺障害が残った場合には、後遺障害等級認定を受けることができます。後遺障害等級認定では、残った怪我や障害の程度に応じて等級を定めています。等級が決まると、一定の基準に基づいて被害者に慰謝料が支払われることになります。
ただし、後遺障害等級認定を受けるには、被害者自身による申請が必要です。通常は専門の医師による診断を受け、追加書類を添付して申請を行います。交通事故に詳しい弁護士であれば、認定を受けやすい資料の作成方法のアドバイスが可能です。
希望した通りの後遺障害等級認定を受けられなかった場合における異議申し立てのサポートにも対応できます。より適切な後遺障害等級を認めてもらうためには、申請資料の問題点を分析し、対策を立てた上で再申請をすることが重要です。
過失割合の交渉ができる
交通事故が起こった場合、加害者側と被害者側の過失割合を考慮して示談金を算出することになります。過失割合とは、交通事故における「責任の割合」のことです。どちらの不注意で事故が起こったのか、どのような状況で事故に至ったのかなどを総合的に判断して決定します。
過失割合は当事者間の交渉で決定するのが一般的です。ただし、加害者側は被害者の責任を多く見積もることが考えられるため、安易に合意すると、受け取れる示談金が少なくなってしまいます。一度合意に至ると、交渉のやり直しは困難です。
適切な過失割合を目指すには法的な知識が不可欠です。弁護士は法律のエキスパートであり、過去の判例や法的知識を元に、個別の事故状況に応じた柔軟な交渉ができます。
被害者側の主張に説得力を持たせられるため、示談金を増額できる可能性が高まります。
必要な治療を継続できる
交通事故によって怪我をした場合の治療費は、基本的に加害者側から直接支払われます。まずは加害者の自賠責保険が治療費を負担し、それを超えた分について加害者が加入する保険会社が負担することになります。
怪我の治療が長引くと治療費が高額になってしまうため、保険会社から治療打ち切りの打診を受ける場合があります。治療が必要にも関わらず打ち切りに応じてしまうと、入通院慰謝料が減額されたり、後遺障害等級が認定されにくくなったりする可能性があります。
怪我が完治していれば保険会社からの打ち切りに応じても構いません。しかし、治療に必要な期間や内容は個人差が大きいため、症状があるのに治療を辞める必要はありません。
まずは保険会社と打ち切りの延長を交渉します。交渉がうまくいかない場合には、被害者側で立て替えた治療費を後から請求することになります。いずれにしても弁護士を立てることで相手との交渉をスムーズに進めることが可能です。
適切な休業損害の補償を受けられる
交通事故による怪我や治療で働けず、収入が減った分については休業損害として請求できます。
会社員であれば、入院や通院による欠勤が生じた場合に、給与を日割り計算して請求することになります。一般的には交通事故が起こる直前3カ月間の平均から求めます。なお、専業主婦や学生などでも休業損害の対象となる可能性があります。
休業損害の算定では加害者側と揉めることも少なくありません。収入を低く見積もったり、休業損害の対象期間を短く設定したりしていると、もらえる補償額が少なくなってしまいます。弁護士なら正当な休業損害を主張できるため、働けない期間にもらえるはずだった金額を回収することが可能です。
スムーズな解決に繋がる
事故発生から解決までの期間は、一般的に治療期間に加えて1〜3カ月ほどかかることが多いようです。しかし、慰謝料の算定基準や過失割合、後遺障害等級認定、治療打ち切り、休業損害などで争っている場合には、示談交渉に時間がかかることが考えられます。
弁護士に依頼しないで交渉をすることもできますが、加害者側に意見を聞き入れてもらえず、交渉が難航したり、不利な条件で合意したりする可能性があります。
弁護士に入ってもらうことで、必要な書類を提示して適切な条件での合意を目指すことができます。被害者自身で交渉をするよりも、スムーズかつ有利な立場での解決に繋がります。
交通事故の被害者が弁護士に依頼するタイミングは?
弁護士から必要なサポートを受けるためには、依頼するタイミングが重要です。依頼のタイミングが遅すぎると、不利な立場から盛り返すことができず、思ったような効果を得られないことも考えられます。
交通事故の被害者が弁護士に依頼する適切なタイミングを解説します。
交通事故発生から解決までの流れ
交通事故発生から解決までの流れは、基本的に次のようになっています。
- 交通事故発生
- 医療機関の受診・治療開始
- 症状固定または完治
- 示談交渉の開始
- 申立ての検討
- 裁判手続き
- 解決
弁護士に依頼する4つのタイミング
交通事故発生から解決までの間における依頼タイミングは次の4つです。依頼のベストタイミングはどのようなサポートを求めるかによって異なります。
- 解決まで一任するなら:治療開始時
- 後遺障害で困ったら:症状固定時
- 示談金増額を目指すなら:示談交渉前
- 裁判手続きを相談するなら:申立て検討時
治療開始時に弁護士に依頼すれば、治療から解決まで一貫したサポートが期待できます。
交通事故の被害者は混乱していることが多く、「何をどうしたら良いかわからない」と悩んでいる方も多いでしょう。知らずにとった行動によって、後から不利な立場に追い込まれてしまうことも考えられます。
早いタイミングで弁護士に一任することで、最大限の補償を受け取れるようアドバイスを受けることが可能です。予想外のトラブルに見舞われた場合の対処も任せられるため、安心して治療に専念できます。
医師が症状固定の診断を下し、後遺障害が確定した時点で弁護士に依頼すれば、適切な後遺障害等級認定を受けられる可能性が高まります。後遺障害等級の審査に通るよう、必要かつ有利な書類を作成するためのサポートを受けられます。
示談交渉に臨む前に弁護士に依頼すれば、示談金の増額を目指すことができます。
一般的に保険会社は加害者側に有利な条件を提示してくるため、提示内容に応じて的確な反論・交渉をする必要があります。このとき被害者自身で交渉をしても、主張を却下される可能性が高いでしょう。
初回の示談交渉時から弁護士にサポートしてもらえば、根拠のある証拠を元に主張を展開できるため、相手方に認めてもらえる可能性が高まります。
交渉が難航した場合には申立てを検討することもあるでしょう。裁判上の手続きは示談交渉よりも複雑であるため、法的な知識が不可欠です。
そもそも勝訴の見込みがあるのかも含めて、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼するデメリット
交通事故の被害者が弁護士に依頼するデメリットとしては、次の2つが挙げられます。
- 費用倒れのリスクがある
- 依頼先を慎重に選ぶ必要がある
費用倒れのリスクがある
弁護士費用が慰謝料の増額分を上回ってしまうと「費用倒れ」になるリスクがあります。慰謝料の額が増えたとしても、かえって被害者の負担が増えるようでは意味がありません。
弁護士に依頼する際は、「どのくらいの増額が見込めるか」「どのくらいの費用がかかるか」を比較して検討するようにしましょう。
依頼先を慎重に選ぶ必要がある
弁護士は法的な専門家とはいえ、その専門範囲は限られています。得意分野の異なる弁護士に依頼すると、期待した成果をあげられない可能性があります。
弁護士を選ぶ際は、交通事故に関連する実績をよく確認し、信頼できるかどうか慎重に判断するようにしましょう。
交通事故の被害者が弁護士費用を抑えるには?
交通事故の被害者が弁護士への依頼をためらう大きな理由に、費用面の心配があります。交通事故の弁護士費用相場や弁護士費用を抑えるポイントを解説します。
交通事故の弁護士費用相場
交通事故の被害者が弁護士に依頼する場合の費用内訳と相場は次の通りです。
費用内訳 | 説明 | 費用相場 |
---|---|---|
相談料 | 弁護士に法律相談をする費用※無料相談をしている事務所もある | 約5000円(30分〜1時間) |
着手金 | 依頼時にかかる費用成功してもしなくても支払う必要がある | 10万円〜50万円 |
成功報酬 | 被害者が得た経済的利益に対する報酬(慰謝料や示談金の増額分が該当) | 増額分の10〜15% |
その他費用 | 交通費や書類作成費など | 実費 |
弁護士費用を抑えるポイント
交通事故被害を弁護士に依頼する場合、費用を抑えられる可能性があります。弁護士費用を抑えるポイントはざっくりと3つ。
- 弁護士費用特約を利用する
- 加害者に弁護士費用を請求する
- 適切なタイミングで依頼する
弁護士費用特約とは、保険会社が提供する自動車保険に付帯する特約のことで、交通事故に遭った際に弁護士費用の補償を受けられます。
一般的には、保険加入者1人あたり300万円を限度とする保険会社が多いようです。弁護士費用が300万円を超えることは極めて稀であるため、ほとんどの場合は弁護士費用特約の範囲内で弁護士費用を賄えるでしょう。
原則として弁護士費用は被害者本人が支払います。ただし、一定の場合には加害者に弁護士費用を請求できることがあります。
- 示談条件として支払いを求める
- 裁判に移行した場合に損害賠償額の最大10%を請求できる
ただし、示談交渉において加害者に弁護士費用を請求するのは一般的ではなく、無理に条件を付加しようとすると交渉決裂の恐れがあります。交渉の条件は自己判断で決めず、弁護士に相談しながら進めるようにしましょう。
適切なタイミングで弁護士に依頼することも費用を抑えるポイントです。
示談交渉が進んでから弁護士に依頼すると、不利な立場を覆すことができず、示談金の増額ができない可能性があります。むしろ交渉を難航させ、裁判に至ることも考えられます。
結果的に弁護士費用が高額になってしまうため、依頼のタイミングには特に注意しましょう。
交通事故被害に遭ったら早めの相談がおすすめ
交通事故の被害者にとって、加害者や保険会社との交渉は精神的にも身体的にも大きな負担となります。弁護士に依頼すれば、示談交渉や法的手続きに至るまで一貫したサポートを受けることができます。
費用倒れのリスクはありますが、弁護士費用特約や加害者への請求によって費用を抑えられるケースもあります。
交通事故被害に遭ったら、不利な立場に陥ってしまう前に、なるべく早く弁護士に相談するようにしましょう。