寄与分が認められる条件と5つの代表的な寄与行為|寄与分を主張する方法も分かる
被相続人のために他の相続人よりも格段の貢献をしたと感じているなら、是非とも活用したいでしょう。
そこで今回は寄与分が認められる条件について詳しく解説します。
故人のために苦労を重ねても条件を満たしていなければ寄与分は認められません。
寄与分に該当する代表的な行為を確認して、自分の貢献が寄与分に値するのか正しく判断できるようになりましょう。
寄与分の主張方法や計算方法についてもお伝えします。
遺産相続における寄与分とは
まずは寄与分について基本的なことを解説しましょう。
寄与分とは被相続人に対して特別な貢献をした者に対して、法定相続分よりも多く財産を分配する仕組みのことで、民放904条で定められています。
寄与分は公平な財産分割を目的としています。
被相続人の事業を支えるために無給で長期間働き続ける、もしくは仕事を辞めて長期間、被相続人の介護を行うなどの特別な貢献をした場合、法定相続分だけでは釣り合いません。
こういった不公平感を解消するために寄与分が利用されます。
寄与分の金額は被相続人への貢献度合いによって異なるため一概には言えませんが、他の相続人よりも受取額が20%~30%ほど高くなるのが相場です。
特段の配慮が必要なケースでは他の相続人と比較して50%以上多くなるケースもあります。
寄与分を主張できる者
寄与分の主張は基本的に被相続人の配偶者と子供に限られます。
被相続人の両親、祖母、兄弟が対象に含まれる法定相続人と間違えないように注意してください。
被相続人とプライベートでも付き合いのある親友や、親身になってくれた知人については、被相続人が財産を成すのに多大な貢献していても寄与分が認められることはありません。
裁判所に寄与分の申し立てを行っても受理されることはないでしょう。
また、2019年の法改正から被相続人の子の配偶者にも寄与分が認められるようになりました。
被相続人の子供の配偶者が、被相続人の財産の維持や増大に大きな貢献をした場合は、寄与分を主張できます。
寄与分が認められる条件
寄与分は被相続人に対して特別な貢献をした場合に認められますが、同じ行動をしても状況によっては寄与分が認めらえる行為(寄与行為)に該当しない場合があります。
寄与行為として扱われるためには、どういった条件を満たせばいいのか見ていきましょう。
被相続人が財産を増やすことに貢献した
被相続人の財産を増やす、もしくは維持することに貢献した場合に限って寄与分が認められます。
寄与分を受け取るには様々な条件を満たす必要がありますが、もっとも重要視されるのは、この条件です。
どれだけ自分の時間を費やして故人に貢献しても、財産に関わることが無ければ法律上は寄与分に相応しい行為とは扱われません。
注意したいのは結果が伴う必要がある点です。
例えば被相続人の代わりに圃場管理を行っていても、業務を担っていた期間に収穫量が落ちて収入源につながった場合は、寄与分に相当する行為として扱われないでしょう。
平均的な貢献を超える行為をした
被相続人と一緒に生活していた場合に、常識的に行うことになる程度の貢献は寄与行為として認められません。
寄与分は他の相続人に比べて大きな貢献をした場合に限られるため、血縁者が常識的に行う程度の貢献であれば寄与分を主張するのは難しいです。
自身が特別に大きな貢献をしていると印象づけるものでなけれなりません。
そのため、介護が必要な親御さんのために同居している相続人が掃除をしたり、食事の準備をするだけでは説得力に欠けます。家族でも、なかなかできないような貢献が必要です。
同じ介護でも自宅で家族ができるようなものは法律で義務付けられている行為の範囲内であるため寄与分につながりません。
しかし、専門のヘルパーが必要になる介護を独学で学び、必要な機器を購入して行っているのであれば寄与分として認められる可能性があるでしょう。
見返りを求めず貢献した
寄与分と判断される行為は見返りを求めずに行われたものです。
いわゆる無償の行為、または献身的な行為と言われるものが該当します。
他の相続人よりも被相続人の事業を大きく躍進させた実績があっても、そのことで巨額の報酬や役職に就くといった見返りがあれば寄与分にはなりません。
しかし、見返りを受け取っていても寄与分が認められる場合もあります。
報酬額が被相続人の会社の社員よりも少なければ、財産の増加に貢献した分を受け取っていないとされ、寄与分が必要と判断される可能性があるでしょう。
長期間貢献を続けた
寄与分に該当するには献身的な行為を長期間続けることが大切です。
継続的に行われていない場合、他の相続人が気まぐれで行った行為との間に明確な違いが見られないこともあります。
寄与分を得るには他の相続人の貢献との間に明確な違いがある必要があります。
貢献を長期間続けることは違いを印象付ける際に分かりやすい指標になるでしょう。
行為が長期間続いたと判断されるためには最低でも3年ほど必要になります。
行為を続けたことを証明できるように記録を付けることも大切です。
どんな行為が寄与分に該当するのか?寄与行為と5つの類型
寄与分に該当する行為というのはある程度決まっており、内容によって次の5つのタイプに分類されます。
- 家業従事型
- 金銭等出資型
- 療養看護型
- 扶養型
- 財産管理型
それぞれのタイプの詳細を確認して、代表的な寄与行為を把握しましょう。
寄与分を得るために、どのタイプの行為をアピールすればいいかが分かります。
家業のために無給で働く「家業従事型」
被相続人が自営業者で、相続人が家業を手伝っているケースは家業従事型の寄与行為に分類される可能性があります。
具体的には被相続人が運営している会社で子供が従業員として10年以上働いており、その間一度も給料を受け取っていないケースがこのタイプに該当します。
ただし前述したとおり、無給でなくても他の従業員よりも大幅に少ない給与だったなら寄与行為として認められることもあるので、給与を受け取っていても寄与分を諦める必要はありません。
このタイプは給与や働いた期間が寄与分の判断に影響するため、労務を提供していたことを寄与分の根拠とするなら、給与額と労働時間をしっかり証明できるようにしておきましょう。
多額の資金を提供する「金銭等出資型」
金銭等出資型は被相続人に資金を提供し、その資金が被相続人の財産が増大するか維持できた場合に認められる寄与行為のタイプです。
よくある事例は不動産に関するもので、被相続人が不動産を購入できるようにお金を渡したり、自身が保有する物件に賃料を請求せずに住まわせるケースが当てはまります。
重要なのは被相続人が不動産を取得することではなく、被相続人の総資産が増加することです。
資金援助が無ければ不動産の購入によって総資産が減る状況であった場合、寄与行為と判断される可能性があります。
被相続人の看護をする「療養看護型」
被相続人が病を患った場合や、加齢による衰弱が見られるケースで行う介護は療養看護型の寄与行為になります。
被相続人が要介護者となったために、仕事を辞めて1日中介護する生活を3年以上続けた場合などは療養看護型と認められるでしょう。
療養看護型でも特別の寄与であることが重要視されます。
このタイプでもポイントは被相続人の財産です。
看護によって業者に介護を依頼する場合に比べて大きな費用削減ができたなら、寄与分として認められます。
一方、普段から訪問介護やデイケアサービスを利用しているケースでは、同居人が行う常識的な介護負担の範疇に収まるため寄与分は受け取れないでしょう。
療養看護型の貢献で寄与分を主張するなら、介護費用をどれだけ削減できたのかが、ひとつのポイントになります。
故人の生活費を工面する「扶養型」
被相続人の故人が金銭的な生活に困った時に生活費を工面したり、大きな怪我をして普段の生活を思うようにできないケースで面倒を見ると、扶養型の寄与行為に該当する場合があります。
仕事中の不注意で被相続人が足の骨を折り、仕事ができず収入が無くなってしまった際に、被相続人を自宅に呼んで扶養したなら、それを根拠に寄与分を主張できます。
扶養型では被相続人の生活費の大部分を負担していることが重要です。
相続人の自宅で一緒に暮らしていても、被相続人が自らの蓄えを切り崩して食費や生活費を支払っていた場合は寄与分とは認められません。
被相続人の財産を管理する「財産管理型」
被相続人が不動産などの財産を保有しており、毎月管理に多額の費用がかかるケースで、相続人の貢献で財産の管理費用を削減できたなら財産管理型の寄与分が成り立つことがあります。
他のタイプとは異なり、相続人の行為が故人の財産やその価値を維持したことが判断のポイントになります。
管理の必要性も大切で、財産を維持するのに欠かせない管理行為であることが重要です。
たとえば故人が所有する賃貸物件における賃貸契約の更新手続きなどが必要不可欠な管理業務に該当します。
また、無償性や継続性も無視できません。
管理業務は無給もしくは安い給与で長期間行う必要があるでしょう。
寄与分を主張する方法|チャンスは3回ある
寄与分を受け取るには、寄与分に該当する行為をしたことを他の相続人に説明して、寄与分に関して同意してもらう必要があります。
話し合いのチャンスは2回あり、この交渉で上手くいかない場合は司法に判断を委ねることになります。それぞれのやり方をメリットや注意点を交えながら紹介しましょう。
認めてもらえる可能性が一番高い「遺産分割協議」
遺言書が無く、複数の相続人で遺産を分け合う場合、遺産分割協議が行われます。
遺産分割協議ではそれぞれの相続人が受け取る遺産について取り決めを行い、その内容を書面(遺産分割協議書)に残します。
裁判所が関与することはなく、親戚が集まる機会に相続について話し合う気軽なものなので、相続人どうしが良好な関係であれば思いのほか容易に寄与分が認められることもあります。
実際、他の方法と比べて寄与分が認められる可能性が高いため、寄与分の獲得を目指すなら遺産分割協議で合意を得ることを目指すべきです。
この後に紹介する方法を利用する頃には相続人の関係が悪化していることも多く、こちらの主張を受け入れてもらえません。
本来、遺産分割協議は遺産の分配に関するやり取りであり、寄与分だけを取り扱うものではありません。
そのため遺産分割協議で寄与分を認めてもらうには、他の相続人が納得できるかたちで寄与分を主張することが大切です。
法的な根拠よりも相手が寄与分を認めるべきだと感じるように自身の貢献を主張しましょう。
第三者も交えて話し合う「遺産分割調停」
相続人どうしの話し合いで遺産の配分について結論が出なかった場合は遺産分割調停を裁判所に申し立てます。
遺産分割調停も本質的には相続に関する話し合いですが、裁判所が選ぶ調停委員の仲介によって話し合いが進められるところが異なります。
調停委員には医師や大学教授など社会経験が豊富な者が選ばれ、場合によっては話し合いに介入することもあります。
調停における話し合いは調停員がリードするかたちで行われます。
遺産の分割について決めるには様々な要素を総合的に考慮する必要があるため、議論する話題が定まらないことも少なくありません。
調停委員は話がまとまりやすいように、論点を適切に切り替えながら進行してくれます。
遺産分割調停で寄与分を認めてもらうコツは積極的に取り組む姿勢と、常識的な寄与分を主張することです。遺産分割調停で裁判所が最初に目を通すのは申立書です。
申立書から調停で扱う相続問題の全体像を把握するため、自分で申立書を書いて提出すれば調停を有利に進められる可能性があります。
調停委員や裁判官の印象を良くするには、過去の事例から判断して妥当な寄与分を主張することが重要です。
被相続人に対して行った貢献がどの程度の寄与分になるのか正確に評価してから主張しましょう。
裁判官に判断を委ねる「遺産分割審判」
調停が不成立に終わった場合、最後の手段として利用されるのが遺産分割審判です。
遺産分割審判では遺産の分配内容を裁判所に委ねるため、協議や調停に比べると遺産分割の自由度が限定されます。
全て法律に従って判断が成されるので、法定相続分をベースとした相続分になる可能性が高いです。
寄与分を認めてもらうのは簡単なことではありません。
寄与分が認められにくい理由は法的根拠を示す必要があるためです。
被相続人に対する貢献が法律で定める寄与行為に該当すると証明しなければなりません。
証拠の提出も必要となるので、協議や調停と比べると寄与分のハードルが一段以上高くなるでしょう。
審判が下り遺産分割の内容が決まると、その内容に従うことになります。
内容に納得できない場合は不服申し立てを行うことで2度目の審判が可能です。
寄与分の調停や審判で弁護士のサポートが欠かせない理由
遺産分割調停や審判は相続人だけで申し立てから裁判所における手続きまで行えます。
しかし、寄与分を認めてもらうためには法律が定める有効な証拠を集めて、適切に主張する必要があるため弁護士の支援が欠かせません。
ここでは高額な費用を支払ってでも弁護士のサポートを受けるべき理由についてお伝えします。
書類の作成から裁判中の手続きまで代行してくれる
法律家に依頼する理由は寄与分の請求にかかる負担を減らすためです。
調停や審判では申立書の作成や、裁判所で各種手続きを受ける必要があります。
調停では申立書以外にも遺産の目録や事情説明書など数多くの書類を求められるため、申し立てだけでも大きな負担になるでしょう。
仕事への影響も無視できません。
調停と審判はどちらも平日の昼間に行われるので、自分でやる場合は仕事を休むことになります。
弁護士に一任すれば手続きの大半を代わってくれます。
法律的に説得力のある根拠を提示してくれる
法律に関する知識や遺産分割についての豊富な知識がなければ正確な寄与分を導き出すことは難しいです。
相続問題を数多く経験した実績の確かな弁護士であれば、優れた見識で適切な寄与分を提案し、調停や審判では法律を根拠に寄与分を受け取ることが妥当であると主張してくれます。
審判では裁判官の印象が重要であるため、法律的に正しい主張をしてくれる法律家は強い味方になるでしょう。
また、弁護士は一歩引いた立ち位置から相続問題に対応してくれるため、相続人よりも冷静に話し合いができるメリットがあります。
事を荒立てることがないので、話がまとまりやすいです。
遺産分割に関する幅広い支援が受けられる
遺産分割では予期しないトラブルが起きることがあります。
場合によっては寄与分を受け取れないどころか、受け取り分が減るケースも考えられます。
たとえば自宅を建てる際に被相続人から資金を提供してもらったことがある場合、相続時に特別受益が相続分から差し引かれます。
また、遺産を黙って使い込んでいたことが発覚した場合は損害賠償請求を提起される可能性があります。
早い段階から弁護士に依頼していれば、こういった問題にも迅速に支援してくれます。
寄与分の計算方法
相続人どうしの話し合いで寄与分を決める協議では、適切な寄与分の計算方法はありません。
他の相続人が受け入れてくれる金額を提示することが重要です。
協議や審理では法律に従うことが大切ですが、算定方法に関する定めは法律にありません。
そのため、これまでの判例を参考にしながら自身の貢献内容に適した寄与分を求めることになります。
代表的な例として被相続人の家業を手伝ったケースについて寄与分を算定してみましょう。
このケースでは相続人が一般企業で働いた場合の収入をベースに寄与分を次のように算出します。
寄与分=相続人が一般企業で働いた場合の年収 ×(1-生活費控除割合)× 寄与を続けた年数 × 裁量的割合
裁量的割合は家業における被相続人との関係性や、被相続人の健康状態などを考慮した係数です。
この算定方法はあくまで一例であり、実際は様々な要素を含む複雑な計算になることもあります。
正確な金額を求めたい場合は弁護士などの法律家に相談しましょう。
寄与分に関するよくある質問
ここまで寄与分に関する基礎知識を数多く見てきましたが、それでも全てをカバーしたわけではありません。
寄与分についてのよくある質問を確認して、さらに知識を深めましょう。
寄与分の証拠に関する質問は多くの人にとって参考になる内容です。
- 時効はありますか?
- 寄与分に時効は設けられていません。
たとえ半世紀前のことであったとしても、寄与行為として認められる可能性があります。
ただし、行為をしたことを示す証拠が必要です。
裁判で寄与分を主張するつもりなら証拠を用意しましょう。
遺産分割協議なら証拠がなくても寄与分が認められることもありますが、相続の議論を蒸し返される危険性もあるので証拠の準備は欠かせません。
また、寄与分について主張できる期間は相続が発生してから10年とされています。
- 遺言書は寄与分の代わりになりますか?
- 遺言書は特定の相続人に対して法定相続分よりも多くの遺産を渡せますが、法定相続分を大きく逸脱するような遺産の分配についてはトラブルが生じることがあります。
たとえば相続人Aへの受取分を無くして相続人Bにその分を渡すといった法定相続分を完全に無視した遺言書だったとしましょう。
その場合、相続人Bは法定相続分と比較して不足している分を請求することができます。
遺言書どおりには分割されないでしょう。
相続人が合意すれば、自由な分割が認められる寄与分の完全な代わりにはならないでしょう。
また、遺言書は被相続人によって書き換えられる可能性があります。
被相続人との関係性によっては、寄与分よりも不確かな手法になるでしょう。
- 寄与行為の証拠にはどんなものがありますか?
- 裁判で寄与分を認めてもらう際に証拠として提出できる代表的なものは次のとおりです。
・介護に関連した支払いの領収書
・介護の記録を記したもの(日記など)
・介護保険の支払い記録
・被相続人の支払いを立て替えたことが分かる出納帳
・被相続人の家業を手伝っていたことが分かる写真
手軽に用意できて効果的な証拠は日記などの日々の記録です。
被相続人に対して何か献身的な行為をしたら日記をつけておくといいでしょう。
領収書などと同じく審判で裁判官を説得する際に役立ちます。
まとめ:寄与分を主張するなら司法に委ねることも考えて法律家に頼りたい
寄与分を認めてもらうには被相続人の財産の維持や増加に貢献する必要があります。
寄与行為に該当するのは労務提供、資金提供、看護、扶養、財産管理のいずれかで、多くのケースで無償性が求められます。
寄与分に該当する行為をしていても、それだけでは足りません。
相続人どうしの話し合いで寄与分を認めてもらい、それが書面に記録されることで初めて遺産分割の内容が更新されます。
遺産分割の話し合いがまとまらない場合は遺産分割審判を提起し、寄与分が妥当だとする判決が下ることを目指します。
寄与行為があったことを主張し、さらに証明する必要があるため、法律知識が豊富な弁護士のサポートが必要になるでしょう。
遺産分割協議、調停、審判の全てにおいて弁護士は寄与分の請求を支援してくれます。
相続問題は紛争に発展するリスクもあるため、早い段階から弁護士に依頼できないか検討することをおすすめします。