養子縁組を解消しても遺産を相続できる死後離縁のメリット・デメリット|手続き手順も解説
養子縁組を解消すると養親に対する相続権を失いますが、養親が亡くなった後に手続きを行う死後離縁ならどうでしょうか。
相続権を維持したまま養子関係だけ解消できないか気になるところです。
そこで今回は死後離縁のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
死後離縁をしても相続権を失わない理由や、どういった場面で活用されているのかなど実践的な話題を数多く取り上げます。
死後離縁を考えている人のために手続きの手順についてもお伝えします。
離縁する前に押さえておきたい養子縁組の基本
死後離縁について触れる前に、養子縁組について確認しておきましょう。
特に養子縁組の種類に関する正しい知識は死後離縁の結果を左右することもあります。
死後離縁の難易度を判断する際にも役立つ基本知識なので、ぜひ一読ください。
養子縁組の目的
養子縁組の目的は血縁者ではない2人が法律上の親子関係になることです。
不慮の事故で両親を亡くした親戚の子供を引き取った際、その後のことを考えて正式な親子関係を結んだり、子供に恵まれない夫婦が里親制度に応募して見つけた男の子を息子にする場合などに利用されます。
他にも会社を存続させるために娘の結婚相手を婿養子にする場合や、同性婚をした2人が子供をもうける際にも養子縁組が行われます。
養親と養子が健在の場合、家族関係を解消するには2人の合意が必要です。
養親は明確な目的を持って養子縁組を行うため、養親が健在のうちは養子関係を解消するのは難しいでしょう。
養子縁組の種類
養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組の2種類あり、実親との親子関係の有無が大きく異なります。
相続にも影響するため、2つの養子縁組の違いは重要です。
まずは普通養子縁組から解説しましょう。
普通養子縁組は血縁者である親との親子関係を維持したまま、養親との親子関係を新たに結びます。
そのため子は2人の親を持ち、双方に対する相続権を主張できます。
本当の両親と一緒に暮らせない子供を養子に引き取る場合などに利用されますが、それ以外のケースでも幅広く利用されており、養子縁組と言えば普通養子縁組を指すことが多いです。
手続きが比較的簡単なところも特徴のひとつで、養子が成人しており養親との間で合意が成されていれば裁判所の判断を仰ぐことなく手続きが完了します。
一方の特別養子縁組では実親との法律上の親子関係を無くしたうえで、新たな養親と親子関係を結びます。
この番組は15歳未満の子供が対象となるため、大人になって離縁手続きを進める段階になって初めて特別養子縁組が利用されたことを知るケースもあります。
特別養子縁組を死後離縁で解消する場合に気をつけることは、実親の相続権が復活することです。
当然、実親との関係性が強まるため、予想外のトラブルに遭うこともあるでしょう。
特別養子縁組の離縁は難しい
特別養子縁組で家族関係を成立させた場合、関係を解消させることは簡単ではありません。
成人の普通養子縁組であれば養子と養親の話し合いで離縁できる場合もありますが、特別養子縁組では裁判所に養子縁組解消の申し立てを行う必要があります。
養子と養親が関係の解消に同意していても認められません。
また、関係の解消を裁判所に申し出ることができるのは養子と実親、検察官だけで、養親からの申出は受理されない点も難易度を高くしています。
さらに申出が認められるには次の条件を満たしていると裁判所が判断する必要があります。
- 養親が児童虐待などの不適切な行為を養子に対して行っている
- 離縁後は子どもを実親が扶養できる
- 養子縁組の解消が養子の利益を維持するうえで必要不可欠
養子と養親の関係性が著しく悪化しない限り離縁は難しいでしょう。
死後離縁とは何か?
死後離縁とは養子または養親が亡くなった後に養子縁組を解消することです。
法律上の親子関係を無効にする手続きであるため、裁判所に申出をして認めてもらう必要があります。
通常の離縁では養子と養親による協議の他にも調停や審判などの手続きがありますが、相手が亡くなっている死後離縁では裁判所に申出を行い、審判の結果を待つだけです。
ただし、提供した情報だけでは審理が十分にできない場合、追加の情報を裁判所から求められることもあります。
特別養子縁組は当事者2人が健在のうちは離縁が困難ですが、死後離縁では離縁を縛る条件が無効になるためスムーズに手続きが進むでしょう。
死後離縁をしても遺産を相続できる理由
離縁をすると家族関係が無効になるため養子または養親に対する相続権を失いますが、死後離縁の場合は手続きを終えた後も養親に対する相続権が存続するため遺産を受け取れます。
ポイントは養子縁組をした相手が亡くなった時に親子関係が有効であったかどうかです。
養親が亡くなった場合を考えてみましょう。
この時、親子関係が継続していれば養親に対する養子の相続権が確定します。
死後離縁は養子が亡くなった後も親子関係が有効であった場合に行う手続きですから、相続権が認められるのは明らかです。
養親に子どもや配偶者がいる場合は遺産の分割について話し合う場合もありますが、養子だからといって相続権が無効になることはありません。
死後離縁はどんなケースで行われるのか?
養親が亡くなったからといって必ずしも死後離縁が必要になるわけではありません。
養親の家業を継いでいれば家族関係を続けることもあるでしょう。
それでは死後離縁はどんなケースで行われるのでしょうか。
死後離縁が申し立てられる典型的な例を見ていきます。
養親の家族との関係に軋轢がある
養子縁組をすると養親以外にも子や配偶者など様々な人間関係を強いられます。
血縁者ではない養子と養親の家族には軋轢が生まれることが少なくありません。
一度できた軋轢は時間の経過とともに大きくなり、多くの人が苦しむことになるでしょう。
死後離縁は悪化した家族関係を解消するために利用されます。
養親が亡くなると、その後は法要などで家族が集まる機会が増えますが、離縁してしまえば出席する理由が無くなります。
特別養子縁組のために離縁できず、長い期間、好ましくない人間関係に苦しんだなら、死後離縁は待ち望んだ機会になるでしょう。
実子の扶養を任される可能性がある
養子になると養親だけでなく、養親の実子や祖父母に対しても扶養の義務を負うことになります。
相手も同様に養子の面倒を見る必要があるため、公平な制度と言えます。
しかし、血縁者ではない相手を扶養することに抵抗感を覚える場合もあるでしょう。
離縁をしないでいると家族に対する扶養の義務が消えないため、養親の祖父母の介護を任される可能性も十分に考えられます。
こういった扶養の義務に伴う負担を軽減するために死後離縁が使われることがあります。
死後離縁をすれば養親の家族に対する扶養の義務は消えます。
死後離縁によって実親とその家族との親子関係が復活するため、扶養の義務から完全に逃れることはできませんが、お世話をする相手を選べるのは大きな利点です。
死後離縁のメリット
死後離縁には養親との親子関係を解消できる以外にも、いくつか見逃せないメリットがあります。
多くは家族内で起こるトラブルに関連したものであるため、養親の実子や配偶者との関係に問題を抱えている場合は死後離縁のメリットを確認しておきましょう。
養親の家族の扶養義務が解消される
死後離縁は養親との家族関係を解消できるだけでなく、養親の家族との関係性も一掃できます。
家族でなくなるため、残された祖父母や実子を扶養する義務はありません。
民法では親族であればお互いに扶養義務を負うとしています。
とくに直系血族と兄弟姉妹の相互扶養に関しては条文に明記されているため、この義務から逃れることは難しいでしょう。
養子の直系尊属は養父母と養父母の父母が含まれるため、養親の父母の介護や食事のお世話をする義務があります。
養親の父母が体調を壊したり、認知症になった場合、養子がお世話をすることになる可能性は否定できません。
死後離縁をすれば直系血族から除外されるため、養親の父母や養父母のお世話を求められることはなくなります。
お墓の管理義務から解放される
家族間でトラブルになることが多いお墓の管理から解放されることも死後離縁のメリットです。
養親の配偶者が健在であれば祭祀承継者となって、お墓の修繕といった管理を行うのが一般的ですが、既になくなっていたり、離婚している場合は養子が管理義務を引き継ぐことになるでしょう。
祭祀承継者となることが濃厚であっても、死後離縁をすればその義務を負うことはありません。
仏壇の維持管理や、法要といったことに負担を感じることはなくなるでしょう。
相続に関連した揉め事に巻き込まれにくくなる
死後離縁によって養親だけでなく養親の父母との家族関係も解消されるため、死後離縁後に発生した相続に関するトラブルには巻き込まれなくなります。
遺産相続が紛争に発展すると養子に厳しい目が向けられるケースが少なくありません。
養親の父母が資産家である場合など相続問題に発展する可能性が高い場合は、死後離縁を行うことでトラブルを回避できるでしょう。
しかし、養親が被相続人となるケースでは死後離縁をしても相続権を消せません。
養親が健在なうちに離縁の話し合いをすべきです。
死後離縁のデメリット
死後離縁をすることで不利益を被る場合もあるので注意してください。
相続に関するデメリットだけでなく、人間関係に関しても気をつけるべきです。
これから取り上げるデメリットを考慮したうえで死後離縁の申出を行いましょう。
相続権を失う
死後離縁のメリットとして相続に関連するトラブルを回避できることを紹介しましたが、これは見方を変えるとデメリットにもなります。
養親以外の相続権を自動的に失ってしまうため、養子であった時に直系血族となっていた相手から遺産を受け取れなくなります。
養親の父母との関係が良好で、長期間お世話をしていた場合などは相続で特別な配慮をしてもらえるケースがあります。
死後離縁をしてしまうと、このような相続の機会を自ら捨ててしまうことになるでしょう。
また、養親の実子が亡くなった際に子や配偶者、自分以外の兄弟姉妹がいなかった場合も養子が遺産を相続できますが、死後離縁をすれば受け取れません。
実子と疎遠になる可能性がある
実子との関係が上手くいっているにもかかわらず、何らかの事情で死後離縁をすると実子からの信頼を失い疎遠になることがあります。
養親と養子の関係に問題がなかった場合、「どうして親を裏切るようなことをする?」と問い詰められることもあるでしょう。実子が納得いく説明ができなければ関係悪化は避けられません。
死後離縁後も実子との関係を維持したければ、手続きを行う前に実子と話をして死後離縁について理解してもらいましょう。
相続トラブルから完全に解放されるわけではない
相続がらみの紛争から距離を置くために死後離縁を考えている人は少なくないでしょう。
しかし、死後離縁をしても相続トラブルから完全に解放されない場合もあります。
家族関係を保ったまま養親が亡くなった場合、養子には相続権が認められます。
この相続権は死後離縁後も有効であるため、養親の遺産をめぐって争いに発展すると巻き込まれることになるでしょう。
養親の相続権を放棄したい場合は相続放棄の手続きが必要です。
相続放棄は養子のままでも行うことができ、家庭裁判所に申し込みます。
申し込みが受理されると審理が行われますが、基本的には認められます。
状況によっては死後離縁と相続放棄を一緒に行うことになるでしょう。
遺族年金が受けられなくなる
死後離縁をすると相続権だけでなく遺族年金の受給権まで手放すことになります。
遺族年金は配偶者が受け取る印象がありますが、子も受給対象に含まれています。
養親の収入が養子の生計の大部分を支えていた場合は養子にも受給権が認められる可能性があるでしょう。
遺族年金を受け取るには養親の家族であることが第一の条件です。
死後離縁で家族関係を解消してしまうと遺族年金の受給権も一緒に消えてしまうので気をつけてください。
死後離縁の方法と手順
ここまでの内容で死後離縁に興味を持った方のために、申し立てから養子離縁届の提出までの手順を解説しましょう。
養親が亡くなっているため申し立てにかかる負担は比較的軽くなっていますが、それでも複数の書類を求められ、最後には市町村役場での手続きが必要になるため、全体の流れを把握しておくことが大切です。
死後離縁の申立てには次の3つの書類が必要になるので、事前に用意しておきましょう。
- 死後離縁許可の申立書
- 養親が亡くなったことを証明する書類
- 養子縁組を証明する書類
申立書は裁判所ウェブサイトからダウンロードできる書式を参考にしながら作成してください。
書き方を解説したPDFも同サイトから入手できます。
養子が死亡したことを証明するのに利用できる書類は除籍謄本などです。
養子縁組を示す書類には自身の戸籍謄本などを利用しましょう。
申立書を作成し必要書類が全て揃ったら、お住いの地域を管轄する家庭裁判所に書類を全て提出してください。
申立の際には800円分の収入印紙が必要です。
この他にも800円前後の切手を納めるよう求められることもあります。
切手に関しては裁判所ごとに対応が異なるため、費用に関して事前に裁判所に確認することをおすすめします。
書類の提出は裁判所の窓口で直接行うか、郵送で送ることもできます。
なお、申立ができるのは養子または養親、もしくは法定代理人のいずれかに限られるので注意してください。
申立書を提出すると裁判所は書類に問題がないか確認し、不備がなければ受理します。
その後は離縁に関する審理が行われます。
審理の内容によっては提出書類だけで判断できないこともあり、その場合は追加の情報を得るために申立者に照会書が送られてきたり、裁判所に面談に来るよう求められることがあります。
照会書には死後離縁をするに至った経緯など申出に関する質問が書かれています。
申立人の率直な意見を聞くためのものであるため、弁護士に代理人を依頼した場合でも本人の住所に送られてきます。
面談は裁判官との対面面談で、裁判所で行われます。
面談では死後離縁について質問され、返答次第では離縁が認められないこともあります。
ポイントは法定血族間の道義に反しないことです。
裁判官に自身の都合しか考えていないと判断されると離縁は難しくなるでしょう。
死後離縁の審理が完了すると審判が下ります。
結果は審理終了から1週間~2週間ほどで届く通知書で確認できます。
面談を行った場合は、面談終了後に審判内容が伝えられることもあるので確認してください。
通知が許可審判だった場合、通知書と確定証明書の申請書が届きます。
確定証明書は離縁の届出をする際に必要になる書類なので、受け取ったら必要事項に記入して裁判所に提出してください。
確定証明書の申請には150円の収入印紙が必要になるので忘れずに同封しましょう。
裁判所から確定証明が届いたら最寄りの市町村役場に足を運んで死後離縁届を提出しましょう。
届出の際に必要になる書類は次の2つです。
- 審判許可証
- 確定証明書
- 本人確認に用いる書類
本籍地以外の市町村役場を利用する場合は、養親と養子それぞれの戸籍謄本も添付しましょう。
自身の戸籍は比較的手軽に取得できますが、養親や養子のものは取得するのに2週間ほどかかる場合もあるので気をつけてください。
本人確認書類は有効期限内であることを必ず確認しましょう。
届出の内容に問題が無い場合、死後離縁が認められて正式に家族関係が解消されます。
死後離縁の手続きに関するよくある質問
最後に死後離縁で親子関係を解消する際に多くの人が気にするポイントを、よくある質問形式でお伝えします。
家族関係の解消についてより詳しくなることで、死後離縁の手続きを円滑に進められるようになるでしょう。
- 死後離縁の届出をした後でキャンセルすることはできますか?
- 裁判所に死後離縁の申立を行い許可審判が出た場合、正式に離縁が確定するためキャンセルはできなくなります。相手は亡くなっているため再度養子縁組することはできないでしょう。
市町村役場に養子離縁届を出さなければ離縁が確定しないと誤解しないよう注意してください。
前述しましたとおり、死後離縁をすると養親の父母や実子に対する相続権を失うことになるため、申立をする前に本当に必要なことか法律家と相談しながら冷静に検討しましょう。
- 死後離縁後の氏はどうなりますか?
- 死後離縁をすると原則的に氏は以前のものに戻ります。
民放816条に氏の復元について「離縁によって縁組前の氏に復する」と記載されているため、これに従います。
ただし、養子縁組から7年以上経過していれば、離縁後3ヶ月に適切な手続きを行うことで養子であった時の氏を継続して利用できます。
職業によっては氏を変えることでキャリア形成に多大な影響が出ることもあるため、氏を変えたくない場合は離縁後に市役所で「離縁の際に称していた氏を称する届」を提出しましょう。
- 裁判所の審理内容について教えてください
- 死後離縁の審理では次のような内容が審判に影響すると言われています。
・養子の年齢
・養子縁組の目的や背景事情
・養子と養親および実親の関係性
・養子の離縁に対する考え
・養子の経済力
・亡養親の遺言や遺族の考え
・死後離縁をする動機
注意したいのは死後離縁をする動機です。
養親の父母の介護やお墓の管理、祭祀などの負担から逃れるために死後離縁をしたとみなされると離縁を許可してもらえないでしょう。
養親の家族に聞き取りを行うこともあるため、死後離縁には紳士な態度で臨むべきです。
まとめ:死後離縁は撤回できない!弁護士のアドバイスを聞いて冷静に進めたい
死後離縁は養親の遺産に対する相続権を確保したまま、養親および遺族との家族関係を解消できます。
扶養の義務、および法要やお墓の管理といった様々な負担から解放されるため、家族との関係性によっては死後離散を検討すべき場合もあるでしょう。
しかし、養親の父母の遺産を受け取れなくなったり、仲の良かった養親の実子との関係が悪化するなどのデメリットもあります。
また、裁判で死後離縁が許可された場合、キャンセルできない点にも注意が必要です。
死後離縁で無効にされた家族関係は復元できません。
安易な離縁で後悔しないように、相続問題の実績が豊富な弁護士に死後離縁が必要なのか相談し、メリット・デメリットをしっかり把握したうえで申立をしてください。