X(旧Twitter)開示請求の目的とやり方|情報開示の難しさについても解説
X(旧Twitter)の開示請求は名誉毀損や侮辱的なポストをされた場合に利用する手続きです。
誹謗中傷で困っているケースで頼りになる制度ですが、取得した情報で具体的に何ができるのか分かりにくいところがあります。
そこで今回はX(旧Twitter)に対する開示請求の目的とやり方について解説します。
手続きの難しさについても触れるので、開示請求をするか迷っている人は参考にしてください。
X(旧Twitter)の開示請求とはプロバイダ責任制限法第5条に基づく情報開示請求のことで、正式には「発信者情報開示請求」と呼ばれます。
この制度の目的はインターネットで権利侵害を受けた被害者が、加害者の情報をプロバイダーやWEBサイトの運営会社に請求できるようにすることです。
開示請求を裁判所に申し立て、請求が通れば個人では対応してもらえない個人情報に関する請求も認めてもらえます。
X(旧Twitter)において開示請求が利用される場合、その目的は次のいずれかになるのが一般的です。
れぞれの目的について詳しく見ていきましょう。
一般的に、X(旧Twitter)に対する開示請求は誹謗中傷をした加害者の個人情報を取得するために行われます。しかし、X(旧Twitter)が加害者の本名や住所、勤務先などの情報を提供してくれることはありません。
開示請求は企業が保管している個人情報の開示を命じるものなので、X(旧Twitter)が管理していない情報に関しては提供できない仕組みになっています。
X(旧Twitter)に対する開示請求で得られる可能性がある情報は次の3つです
- 加害者のIPアドレス
- 加害者のメールアドレス(加害者が登録している場合のみ)
- 加害者の電話番号(加害者が登録している場合のみ)
多くのケースで開示請求の対象になるのはIPアドレスです。IPアドレスから加害者が利用しているプロバイダを特定し、プロバイダから加害者の個人情報を取得します。
X(旧Twitter)に開示請求をする場合、誰が誹謗中傷を行っていたのか知るだけで終わるケースは稀で、多くは加害者を特定した後に裁判を起こします。民事訴訟はそのひとつです。
民事訴訟は誹謗中傷で受けた被害を回復するために行われる裁判で、加害者に賠償や謝罪を求めます。
賠償額または慰謝料は権利侵害の度合いや被害の大きさによっても異なりますが、およそ10万円~50万ほどです。被害が深刻なケースでは100万円の慰謝料が認められたこともあります。
高額になるのは著作権侵害が認められる場合で、企業が製造販売しているソフトウェアやコンテンツを無断でファイル共有ソフトで配布した事例では数千万円規模の賠償を命じられたこともあります。
名誉毀損などの法律違反を繰り返す加害者に対して刑事罰を科すために刑事告訴を行います。
X(旧Twitter)の開示請求では名誉毀損罪や侮辱罪、著作権侵害などを法的根拠に告訴されやすく、著作権侵害は5年以下の懲役であるため初犯でも実刑判決が出る可能性があります。加害者は重い責任を負うことになるでしょう。
殺人予告のような極めて悪質なポストをされたケースでは加害者の身柄を拘束することもあるため、身の危険を感じる場合にも利用できます。
代表的な罪状と刑事罰の内容は次のとおりです。
罪状 | 刑事罰 |
---|---|
名誉棄損罪 | 3年以下の懲役・禁固もしくは50万円以下の罰金 |
侮辱罪 | 1年以下の懲役・禁固もしくは30万円以下の罰金、科料、拘留 |
著作権侵害 | 10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金または併科 |
開示請求は時間と費用がかかるため、むやみに請求できるものではありません。
無駄な手続きを避けるためにも、開示請求が認められるポストの特徴を確認しておきましょう。
開示請求が認められやすいポストはいずれも権利侵害が含まれます。
どういったポストが権利侵害と判断されるのか具体的に見ていきましょう。
「バカ」や「低能」といった罵倒や侮辱的な言葉を含むポストは侮辱罪や名誉感情侵害に該当する場合があるため、開示請求の根拠になります。
名誉感情は分かりやすく言えば自己評価のことでプライドと解釈することもできます。
問題のポストによって自信を失ったり、プライドが傷ついた場合は名誉感情侵害の可能性があります。
名誉感情侵害の成立要件は比較的緩く、名指しで中傷される必要はありません。
ポストの内容から誰に対する発言なのか判断できれば十分なケースもあります。
「大学中退のくせに」「どうして少年院に入っていたことを隠すのですか?」などの相手の社会的評価を下げるポストも開示請求が認められやすいです。
前述のような発言は名誉権侵害に該当する可能性があり、見過ごせば被害者の学業や仕事に悪影響が及ぶ危険性があります。
名誉権侵害が認められやすい発言は「本人が隠しておきたい事実」であることが多いです。
多額の借金を抱えているなど、明るみになると周囲の人の評価が落ちます。
こういった触れてほしくない事実を明らかにしている投稿は名誉権侵害または名誉毀損に該当しやすいです。
許可を取らずに人の著作物を投稿すると著作権侵害に該当します。
著作権侵害は相手が本来受けるべき利益を損ねることにつながるため、X(旧Twitter)においても投稿の削除が認められるほど重大な権利侵害です。
自分が撮影した写真を無断転載されたり、一部を切り抜くなどの加工してポストされた場合は開示請求を利用して加害者の情報を取得できるでしょう。
また、自分がメインの被写体として写っている写真を無断で投稿されたケースは肖像権侵害に該当し、こちらも開示請求の根拠になります。
本名や住所などの個人情報を含むポストはプライバシー権の侵害になる場合があります。
主に次の情報がプライバシー権が対象とする個人情報に当たります。
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- 出生地
プライバシー権は法律で明記されていませんが、判例や日本国憲法第十三条の解釈により保護されるべき権利のひとつとして扱われているため、開示請求の際に根拠として利用できます。
個人情報以外にも不倫などのプライベートな事情を明るみにされた場合もプライバシー権侵害に当たる可能性があります。
X(旧Twitter)の開示請求は簡単ではありません。
ポストの削除をX(旧Twitter)の運営会社に請求することに比べると段違いに難しいです。
ネットの有名掲示板やSNSを見ているとX(旧Twitter)の開示請求に苦戦したり、意味が無いと不満を口にする人を確認できるでしょう。
開示請求が難しい理由はいくつかありますが、最初の壁として立ちはだかるのは書類の作成です。
発信者情報開示請求書を作成して裁判所に提出する必要があるのですが、侵害された権利と権利が侵害された理由を記述することを求められるため、一般の人が対応するのは難しいです。
侵害された権利を適切に選ぶことができずあきらめる場合もあるでしょう。
開示されるIPアドレスが特殊であり、扱いが難しい問題もあります。
開示請求が認められた場合にX(旧Twitter)が提供するIPアドレスは加害者がX(旧Twitter)にログインした時のもので、投稿を行った時のものではありません。
加害者がネットに接続した環境によっては特定が困難な場合もあるでしょう。
十分な知識がなければ開示請求を加害者の特定に役立てることはできません。
X(旧Twitter)の開示請求をして加害者を特定するまでには、いくつかの手順を踏む必要があります。
手順の流れを把握して円滑な手続きができるようになりましょう。
なかには弁護士に一任する人もいるでしょうが、手順を知っていれば弁護士の報告内容をより正確に把握できるようになります。
開示請求では個人のプライバシーを尊重した手続きが行われます。
そのため請求者は情報を開示する相手が権利侵害を行ったことを証明する必要があります。
証明できなければ加害者側のプライバシーが保護されるため、請求は認められません。
X(旧Twitter)における権利侵害の証明をするには、権利侵害のポストを撮影して請求書に添付します。
ブラウザやスマートフォンのスクリーンショット機能を使えば簡単にポストを画像に変換できます。
スクリーンショットを撮る際はポストの本文だけでなく、投稿者や投稿日時も確認できる画像になるよう気をつけてください。
いつ誰が投稿したのか明らかにできます。
ポストの文章にX(旧Twitter)やネットのスラングが用いられている場合は、読み手が分かりやすいように補足を入れておくといいでしょう。
開示請求書が用意できたら裁判所に発信者情報開示仮処分の申し立てをします。
仮処分をすることで、X(旧Twitter)
の運営会社が加害者のIPアドレスを削除するのを防げます。
X(旧Twitter)は利用者のIPアドレスを定期的に破棄しているため、仮処分を行わないと加害者を特定している最中に必要な情報が消されかねません。
X(旧Twitter)に対する開示請求を行った後はプロバイダとの裁判が控えています。
また、加害者がアカウントを削除した場合、1ヶ月かからずにそのアカウントのログイン情報が削除されることもあります。
手続きに時間がかかると加害者の特定が難しくなるため、仮処分の申し立ては迅速に行いましょう。
開示請求書の内容に誤りがないように弁護士に添削してもらうか、書類の作成を依頼してください。
X(旧Twitter)から提供されたIPアドレスより、加害者が利用しているプロバイダを特定します。
プロバイダが分かったら、プロバイダに対する開示命令を裁判所に申し立てて、加害者の氏名や住所、電話番号をプロバイダに提供するよう要求します。
プロバイダが加害者の登録情報をすぐに破棄するとは考えられないため、仮処分は不要です。
開示命令の裁判では次の3点について争われます。
- 権利侵害の有無
- 原告に対して権利侵害が行われたのか
- 権利侵害を正当化する根拠(違法性阻却事由)はあるか
審理の結果、原告の主張が認められれば裁判所からプロバイダに対し発信者情報の開示が命じられます。
X(旧Twitter)の開示請求にはいくつか注意すべきところがあります。
想定していた情報が入手できない、または思いのほか時間がかかってしまうといったトラブルに巻き込まれる場合もあるため、事前に気をつけるべきポイントを確認しておきましょう。
開示請求をされた場合の注意点も併せてお伝えします。
投稿したポストに対して開示請求をされると通知が来ます。
通知では開示請求の根拠や開示が求められている情報の種類が伝えられ、さらに開示請求に応じるかどうかの返答をするよう求められます。
開示請求に応じるか否かは自由に返答できます。
返答期限は2週間で、期限を過ぎても返答しないと開示を拒否したと判断されます。
開示請求を拒否すると、後で開示請求をめぐり原告と争うことになります。
相手の主張に対して開示請求の成立要件が満たされないことを証明できないと、情報が開示されるだけでなく原告の裁判費用まで支払うことになるでしょう。
開示請求を拒否する場合は慎重に行ってください。
安易に拒否すると思わぬ出費につながります。
プロバイダーは登録しているアカウントの氏名や住所といった個人情報については継続して保管しますが、IPアドレスのような通信ログを保存する期間は限られています。
通信ログの保存期間はプロバイダーごとに異なりますが約3ヶ月~6ヶ月に設定されている場合が多いです。
保存期間を過ぎると通信ログは消去されるため、開示請求が認められても加害者の特定ができなくなります。
プロバイダーの多くは開示請求無しに情報を開示してくれません。
X(旧Twitter)との裁判の後にプロバイダーに対する開示請求を行う必要があるため、開示請求が遅れると通信ログの保存期間が過ぎてしまう危険性があります。
時間に余裕が無い場合は、より短期間で加害者の情報が取得できる発信者情報開示命令が利用できないか検討してください。
開示請求が認められるとX(旧Twitter)は加害者のIPアドレスを提供してくれますが、そのIPアドレスが加害者以外の人物のものである場合があります。
X(旧Twitter)が提供するIPアドレスは、権利侵害が行われた投稿があった時刻から一番近いログインの際のものです。
そのため複数の人物が同じアカウントを使ってX(旧Twitter)を利用している場合は加害者を正確に特定できません。
投稿が行われた後のログインにおけるIPアドレスが提供された場合、加害者ではない相手に対して裁判をすることになるでしょう。
加害者であることを確認するために、問題ポストの投稿時間と提供されたIPアドレスのタイムスタンプを比較するなどの検証が必要です。
リポストは他者のポストを紹介または引用するための機能なので権利侵害に当たらないように思えますが、実際は名誉毀損などの罪に問われる危険性があります。
権利侵害に該当するポストをリポストした場合は同じ責任を負う可能性があるため注意が必要です。
権利侵害が認められるためリポストも開示請求の対象になる可能性があります。
ボタン一つでできるリポストですが、開示請求をされるリスクがあるため安易に利用するのは危険です。
X(旧Twitter)の運営会社は大量の訴訟を抱えているため、開示請求に対応する人的リソースが不足することがあります。
さらに情報開示に消極的なので、想定していたよりも開示に時間がかかる場合があるでしょう。
1人で1度に100件を超える開示請求をする人もおり、タイミング悪く大量の開示請求に巻き込まれると申請から加害者の特定まで半年近くかかるケースも報告されています。
X(旧Twitter)の運営会社が、どれだけの開示請求を抱えているのか、情報を開示までどれだけの時間を要するのかを正確に判断する術はありません。
3ヶ月で通信ログを削除するプロバイダーを相手にする場合、X(旧Twitter)が抱える訴訟の件数によっては厳しい戦いになるでしょう。
この項目では開示請求をされた場合の対処法について解説します。
開示請求は訴訟や告訴につながる可能性が高いため、誤った対応をするのは危険です。
開示請求を受け取った後にすべきことを権利侵害が確認できるケースとできないケースに分けて取り上げます。
X(旧Twitter)を登録した覚えがない、もしくは長期間使っていない場合は別の誰かが無断であなたのPCかスマホを利用してX(旧Twitter)で権利侵害を行った可能性があります。
家族と同居されている場合は家族にX(旧Twitter)を使っていないか確認しましょう。
開示請求の詳細が記載されている意見照会書を家族に見せて心当たりがあるか聞いてください。
全く身に覚えのない開示請求であっても自分と無関係だと証明できない限り責任を負う危険性があります。
パソコンやスマホがウイルスに感染して悪意ある何者かに悪用された可能性はありますが証明するのは難しいです。
弁護士にどう対処すべきか相談し、冷静かつ迅速に対応しましょう。
開示請求で権利侵害を指摘されたポストを投稿した覚えがあっても、それが権利侵害に該当しないと判断できる場合は、開示請求を拒否し、原告の主張に反論します。
しかし、個人で対応するのは難しいため弁護士のサポートが必要です。
とくに意見照会書への返答には開示請求を拒否する正当な理由があることを法的に主張するため、法律知識が豊富な弁護士の支援が欠かせません。
裁判でこちらの主張が認められ、開示請求の要件が満たされなかった場合、個人情報が相手に渡らずにすみます。
相手が再び開示請求をして認められない限り、刑事告訴や民事訴訟に発展することはありません。
被害者が主張する権利侵害を行った自覚があり、専門家も権利侵害の要件を満たすと判断した場合は開示請求に同意をし、裁判を回避するために示談交渉を模索することが賢明です。
開示請求があったことを知らせる意見照会書だけでは、必ずしも被害者の目的を知ることはできませんが、加害者の情報を取得後は損害賠償請求や刑事告訴をする可能性が高いです。
意見照会書の「侵害された権利」の項目に記載されている権利が著作権や名誉権の場合は注意しましょう。
刑事告訴をされると重い刑事罰を科せられる可能性があります。
弁護士にお願いして被害者との示談を実現してもらいましょう。
開示請求は加害者の個人情報を取得して終わりではありません。
その後には民事または刑事の裁判が控えています。
先を見据えて、開示請求を申し立てる時点で弁護士に依頼しましょう。
弁護士からは書類作成をはじめ様々なサポートを期待できます。
弁護士に頼るべき理由を確かめながら、依頼するメリットについて見ていきましょう。
弁護士に依頼すれば開示請求が認められるかどうか教えてくれます。
個人では侵害されている権利の特定すら難しいため、問題のポストが権利侵害の要件を満たしているか判断するのは不可能に近いです。
弁護士は豊富な法律知識を持っており、最近はネットの権利侵害を得意とする先生もいるので、依頼者の目標に合わせた開示請求の計画を立ててくれます。
どの権利侵害を主張するのか目的を考慮して正確に選んでくれるでしょう。
最終目標が決まっていない場合は、選択肢を提示してくれます。
目標を明確にしたうえで開示請求の手続きを進められるようになります。
弁護士は様々なレベルで開示請求書の作成をサポートしてくれます。
依頼者が作成した書類を添削・修正する程度のものから、書類の作成を全て任せることもできます。
開示請求書の記述箇所は重複箇所を除くと実質10項目ほどと少ないですが、「権利侵害をされたと主張する理由」など法律知識を必要とする項目があるため、簡単に作成できるものではありません。
裁判所に提出する書類ですから法律的な正しさが求められます。
自分で書類を作成する場合でも、提出する前に弁護士に内容を確認してもらうべきでしょう。
開示請求書以外にも訴状や告訴状など書類を作成する機会は数多くあります。
法律知識を持たない人が短期間に何枚も法的主張をする書類を作成するのは大きな負担になるので、早い段階で弁護士に一任することをおすすめします。
開示請求を弁護士の支援を受けて作成した場合、その後に続く民事訴訟や刑事告訴も任せられます。
すでに依頼者の事情は詳しく弁護士に伝わっているので、こちらの要望に沿って裁判を進めてくれるでしょう。
告訴状や訴状は開示請求よりも正確さが求められる書類で、裁判の行方を左右する場合もあるため、細心の注意を払って作成しなくてはいけません。
これらの書類も弁護士に一任するのが賢明な判断です。
刑事告訴では加害者が示談交渉を申し出てくることも十分に考えられます。
弁護士に一任していたなら、交渉や関連するメールや電話のやり取りに悩むことはありません。
開示請求はツイッターで権利侵害を受けた場合に加害者を特定するために利用する手続きです。
加害者を特定できたら刑事告訴や民事訴訟を起こし、被害の回復や加害者に刑事罰が科されることを求めます。
開示請求のやり方は複数の手順を踏む必要があるため複雑です。
さらに開示請求書は法的主張のルールに従って記述する必要があり、法律知識を持たない人が簡単に作成できるものではありません。
初めてX(旧Twitter)に対して開示請求をするなら弁護士に全て依頼することをおすすめします。
最終目標を伝えれば、そのために何をすべきか教えてもらえますし、一任すれば結果が出るのを待つだけで済む場合もあります。
今回の記事を読んで「開示請求は難しそうだ」と感じたら、迷わず弁護士に相談しましょう。