孫に遺産を相続させる方法5選|気をつけたいトラブルも解説
孫に財産を相続させるには生前に準備をしておく必要があります。
孫への相続は本来認められないため、手続きだけでなく様々な配慮が必要になります。
そこで今回は孫に相続させる方法について解説します。
正式な相続人になってもらう方法から、相続権を持つ家族を説得する手法まで、特徴の異なる5つの手法を取り上げるので、ご自身の状況に適した方法が見つかるでしょう。
孫が相続人になれなかった場合の対処法について触れるので、どうしても孫に財産を遺したい人は参考にしてください。
押さえておきたい孫の遺産相続に関連する基礎知識
孫に相続させる具体的な方法を紹介する前に、関連する法律知識を学んでおきましょう。
孫の相続が一般的な相続と異なる手順を踏む理由が分かります。
相続手続きにおけるケアレスミスを予防する効果も期待できるので、ぜひ目を通してください。
孫には相続権が無い
孫には相続権が与えられません。
法律で相続権が認められているのは被相続人の配偶者と子供、親、兄弟姉妹に限られます。
孫は特定の条件を満たさない限り、相続人にはなれません。
民法に定められている相続順位は1位が子供、2位が親、3位が兄弟姉妹となっており、配偶者は常に相続が認められる特別な扱いを受けます。
このように孫ははじめから相続人に含まれていません。
孫が相続人として認められない理由は、相続において直系の親子関係が重視されるためです。
「財産は親から子供に継承されるべき」という考え方が相続の根底にあるため、孫の相続権は想定されていません。
また、孫の相続権を無くすことは相続手続きが複雑化するのを防ぐ狙いもあります。
直系の親子関係に限定することで相続の見通しをよくし、手続きがシンプルになります。
遺言書の種類
相続人ではない孫に財産を遺したい場合、遺言書を利用することができます。遺言書には次の3つがあり、それぞれ特徴と成立条件が異なります。
- 自筆証言遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
自筆証書遺言は被相続人が遺言書の内容を全て自筆するもので、作成した日付と自筆の署名が必要になります。
一般的に知られている遺言書はこの形式ですが、形式に不備があると法的に無効とされることもあるため専門家に内容を確かめてもらうことが重要です。
公正証書遺言は遺言を口述で公証役場の職員に伝えて作成する遺言書です。
専門知識を持った職員が対応してくれるので法的に有効な遺言書が出来上がります。確実性の高い作成方法と言えるでしょう。
秘密証言遺言では遺言書を公証役場へ持っていき、職員と証人の立ち合いのもと遺言書に封をして役場に保存してもらいます。
信頼できる証人を探す必要があり、手続きに手間がかかりますが、孫に相続させることを周囲に伏せておきたい場合に利用することになるでしょう。
遺留分の金額
相続では遺留分と呼ばれる法律で定められた相続分が設けられています。
遺留分は相続人に保証されており、本人の同意なしに遺留分を無効にすることはできません。
ただし、遺留分が保障されるのは配偶者と子、それに直系の尊属に限られます。
孫に相続させる場合、相続人の相続分を遺留分よりも減らさないように配慮する必要があります。
もし遺留分を侵害するようなことがあれば、相続人から遺留分減殺請求が申し立てられる可能性があります。
遺留分減殺請求が認められると遺言書が無効になるため、孫への相続ができなくなるでしょう。
孫が絡む遺産相続で気をつけたいトラブル
孫への相続は様々なトラブルを引き起こす可能性があります。
本来なら相続人にならない孫が遺産を受け取ることで生じる様々な問題を確認し、円滑に相続が進むように準備しましょう。
相続人の心情など、孫の相続に関して注意すべきことをお伝えします。
相続税が想定以上にかかる
相続人ではない孫に財産を残す場合、相続税が通常よりも大きくなる場合があります。
直系卑属に対する相続税の税率は高く設定されており、さらに一般の相続で有効な税の控除が適用されないことがあるため、想定以上に課税される可能性があるでしょう。
孫の相続税が高くなるのは相続税法第18条の2割加算規定によるものです。
この法律では相続人が健在にもかかわらず、孫に相続させると相続税が2割増えると定められています。
孫が受け継ぐ財産が高額な場合、2割加算は大きな負担になるでしょう。
相続人が遺書を無効にしようとする
孫に財産を相続させると、子や配偶者の相続分が減るため、相続人からの反発が予想されます。
遺言書で孫への相続を主張した場合は、遺言書の妥当性に疑問を抱く相続人も出てくるでしょう。
遺言書の内容を取り消すために相続人たちが一緒に遺言無効訴訟を起こすことも十分に考えられます。
近年、遺言書の内容をめぐる裁判は増加傾向にあります。
これまで確実性が高いと言われてきた公正証書遺言でも無効を主張する相続人が提起する例が増えているため、孫に相続させる場合は相続人への配慮も重要です。
親族間の人間関係が悪化する
相続の慣例を破って孫に財産を遺すことは親族間の衝突を招く可能性があります。
本当なら受け取れた遺産を孫に取られたと反感を抱いたり、被相続人に対する貢献が孫のために無視されたと主張するなど、親族の不満は高まるでしょう。
孫が婚外子であった場合、問題はより複雑になります。
被相続人の孫で間違いないのか確認するよう求める相続人が現れるでしょう。また、遺言書を無効にするために動く相続人が出てくることも考えられます。
孫に相続させるなら、親族間で不公平感が出ないよう慎重に対応する必要があります。
孫に遺産を相続させる方法
孫に相続させる方法は数多くあります。
それぞれメリットとデメリットがあるので、特徴を含めて確認し、自身の状況に最適なものを選べるようにしましょう。
手段を多く知っていれば、より柔軟に対応できます。
遺言書に孫へ遺贈すること書き記す
孫に財産を相続させる場合、よく用いられるのが遺言書を遺すやり方です。
遺言書では特定の財産を誰が相続するのか被相続人が決定できます。
遺言書の強みは法定相続人以外にも財産を渡せるところです。
被相続人が相続について何も決めずに亡くなった場合、相続人が遺産分割協議を開いて相続分について話し合うことになるため、孫に遺産が渡ることはありません。
特定の財産を孫に引き継がせたい場合は遺言書が有効な手段のひとつです。
また、相続では法律で決められた割合で遺産が分配されるのが基本ですが、遺言書があれば被相続人が自由に割合を決められます。
遺言書を利用する場合に注意したいのは遺留分についてです。
本人が記した遺言書であっても、遺留分の削減はできません。遺言書を書くなら遺留分を減らさない配分を考慮すべきです。
代襲相続になる可能性を検討する
相続させたい孫の父親が既に亡くなっている場合は代襲相続も効果的な相続方法です。
代襲相続とは相続人が亡くなっている場合に、その子供、つまり被相続人の孫が相続権を受け継ぐ制度のことです。
孫が代わりに正式な相続人となるため、遺贈した場合にかかる相続税の2割加算は適用されません。
法定相続分も本来の相続人と同じ割合で適用されます。
配偶者と子供で遺産を分ける場合は、遺産の半分を子供の数で分割したものが孫に割り当てられます。
条件を満たす必要がありますが、孫に遺産の一部を相続させたいだけなら、遺言書を書くよりも代襲相続を利用したほうが手軽で、税制面でも有利です。
孫と養子縁組をする
相続は親と子の間で行われるため、孫を養子縁組して子にすることで正式に相続権を与える方法です。
孫を養子にすると、子と同じ優先順位で相続できるようになるため、相続で有利な立場になります。
法定相続人に該当するので法定相続分を受け取れるようになり、遺言書など手間のかかる手続きをしなくても自動的に孫が財産を受け取れます。
注意したいのは法定相続人となれる養子の人数が制限されていることです。
子がいる場合は1人、いない場合は2人までしか認められません。
また、孫が養子の場合は遺産を相続した際に相続税の2割加算が適用されます。
相続人に孫に遺贈するようお願いする
子や配偶者が遺産を孫に相続させることに理解を示している場合は、遺贈の手続きを頼むこともできます。
事前に相続人全員の同意を得られていれば、孫の相続をめぐって遺産分割協議が紛糾することもありません。
しかし、孫の相続について賛同してもらうだけでは確実性に欠けるため、相続について記した遺書を相続人立ち合いのもと公正証書遺言を作成するなどの対策が必要になるでしょう。
この方法を利用する場合、実際の相続手続きに被相続人は参加できません。
手軽ですが、より確実性を求める場合は他の手法を検討すべきです。
家族信託を利用する
家族信託とは家族に自分の財産の管理を任せる制度のことです。
遺産分割におけるトラブルを回避するために、財産を引き継がせたい子にその管理を任せます。
家族信託の制度を使い孫に財産の管理を委託すると、その財産は信託財産となり、遺産相続において特別な扱いをされます。被相続人が亡くなった後も継続して信託財産の管理を孫に任せることで、確実に孫が財産を継承できます。
遺言書だけでは相続人から無効の申し立てをされるリスクがありますが、家族信託を併用することで遺言書が無効になる危険性を抑えられます。
孫に遺産を相続させるのが難しい場合の対処法
家族からの反発が大きいなど、何らかの理由で孫に財産を相続させるのが難しい場合は、これから紹介する方法を使って財産を遺せないか検討してみてください。
相続では無いため税制面で相続よりも不利なものもありますが、家族から不満が噴出しにくい利点があります。
生前贈与ができないか検討する
孫が財産を受け取ったのを確認したい場合におすすめなのが生前贈与です。
様々な方法が利用できるため、譲る財産の種類ごとに適切な方法を選べるメリットがあります。
孫への生前贈与としてよく利用されているのは教育資金として渡すやり方です。
筋道の立った手法なので、周囲からの不満は起きにくいでしょう。
学校に支払う教育費に該当するものであれば、最大1500万円まで非課税で贈与できます。
さらに塾など教育関連費用に関するものでも最大500万円まで非課税です。
ただし、一括贈与が条件であるため、高額な学費がかかる医学部などの高等教育機関に孫が合格したタイミングを狙って行う必要があるでしょう。
なお、贈与した資金のうち孫が30歳になるまで使いきれなかった分については課税対象となります。
手続き上、注意が必要な点があるので、利用に際しては孫にも制度の仕組みを理解してもらう必要があります。
生命保険を利用する
契約した生命保険の受取人を孫にすることで、自分が亡くなった時に孫に保険金を渡すやり方です。
ポイントは贈与税がかからないよう生命保険を契約することで、孫の受取額を110万円以下に抑えます。
契約者と受取人を孫に指定して、被保険者を自分または配偶者にすれば死亡保険金が間違いなく孫に渡されます。
生命保険が相続財産にならないように、契約者が保険金を受け取るタイプの保険を選ぶようにしましょう。
おすすめは個人年金保険の契約形態を取る保険です。
暦年贈与を活用する
暦年贈与を計画的に活用して多くの財産を孫が受け取れるようにします。
1年間に110万円までなら非課税で贈与できる仕組みを利用し、毎年110万円ずつ孫に渡していきます。こうすることで贈与税を回避しながら多額の財産を継承できます。
贈与する人数を増やすことで非課税の贈与枠を増額できる制度を活用すれば、より多くの財産を孫に渡せるでしょう。
この手法のメリットは孫が財産を受け取ったことを確認できるところです。
確実性が高い手法を使いたい人におすすめです。
孫への遺産相続を弁護士に支援してもらうべき理由
税制を考慮すると、孫に財産を残したい場合は相続が最も有利であるケースが少なくありません。
孫を相続人させるには法律上の手続きが欠かせません。そこで頼りになるのが弁護士です。
これから弁護士に相続手続きの支援を依頼することで得られるメリットを解説していくので、弁護士の力を借りるべきか悩んでいる人は参考にしてください。
遺言書の作成をサポートしてくれる
遺言書を使って孫に財産を残す場合は、遺言書が法律に定められた書式で正しく書かれている必要があります。
法的に無効な遺言書は遺産相続で何の効力も持たないため、孫の相続を望まない親族から簡単に遺言書を無効にされてしまうでしょう。
弁護士のサポートがあれば遺言書の問題箇所を洗い出し、修正してくれるため法的に正しい遺言書が作成できます。
自筆証書遺言を選ぶ場合は念のために弁護士などの法律家に内容を確認してもらうことを、おすすめします。
相続税を適切な金額に抑えてくれる
相続にかかる税金を少しでも抑えたい場合は弁護士の見識と人脈が役立ちます。
財産を孫に渡す方法や財産の種類によって、課せられる税金の額が異なるため、譲渡する際は適切な方法を選ぶ必要があります。
相続に関する法律知識が豊富で、税理士とのつながりも強い弁護士なら相続にかかる税金を最小限に抑えてくれるでしょう。適切な譲渡方法について詳しく教えてくれるだけでなく、具体的な税額についても話を聞けます。
税金が発生する場合は税務上の手続きについてもバックアップしてくれます。
遺産分割協議の話し合いを調整してくれる
孫への相続は家族から反対の声が上がることが少なくありません。孫が遺産分割協議で矢面に立たされる可能性もあるでしょう。
弁護士にあらかじめ事情を説明し、遺産分割協議において孫をサポートするように依頼すれば、弁護士は協議で話し合いの調整をしてくれます。
弁護士は法定相続人それぞれの妥当な相続分を判断できるため、法律や判例を根拠に、落としどころを見つけてくれるでしょう。
相続人異母兄弟が多い場合などは遺産をめぐって協議の場が荒れることもあります。
中立な立場で状況を見定めることができる弁護士は孫にとって頼もしい存在になります。
孫の相続に関連する幅広い手続きを代行してくれる
弁護士は法律関係の書類作成や各種申請などの代行ができるため、孫の相続に関係した手続きの負担を軽くしてくれます。
家族信託で財産を譲る場合は財産の評価から信託契約書の作成など、専門的な知識を必要とする作業が数多くあり、素人が正確に行うのは難しいです。
弁護士なら書類の作成から手続きまで全て代わりにやってくれるので、煩雑な作業から解放されるでしょう。
養子縁組を利用する場合も孫が相続権を得るまでに、養子縁組の種類の選定、必要書類の用意、届出書の作成と申請、新しい戸籍の作成など次々に手続きをこなす必要があります。
途中で挫折する危険性もあるので、弁護士のフォローは欠かせません。
孫に相続に関連したよくある質問
ここまで孫の相続に関する様々な内容を取り上げましたが、カバーしきれなかったものがあります。
解説できなかったものを、よくある質問の形式で解説していくので、ぜひ参考にしてください。
重要度が高く、孫に財産を遺したい人が知りたい内容を厳選してお伝えします。
孫の相続順位は第何位ですか?
孫は相続権を持たないため相続順位はランク外です。
しかし、被相続人の子が親よりも早く亡くなった場合は孫が代襲相続人となり、相続順位は1位に変更されます。
代襲相続以降は被相続人の両親や兄弟よりも相続順位が高くなるため、被相続人の配偶者が亡くなっていて、子もいない場合は被相続人の親兄弟よりも孫が優先的に相続します。
また、孫が被相続人の養子になった場合も代襲相続と同じように相続順位が1位に上がります。
孫の相続税がかからない場合はありますか?
孫の相続財産の金額が3600万円以下の場合は相続税が一切かかりません。
相続税には基礎控除が設けられており、控除額に満たない分に対しては相続税が免除されます。
ただし、孫が遺産を相続する場合、通常は2割加算が適用されるため、控除額を超えた分にかかる税率は40%となり、通常よりも多くの税金を納めることになります。
なお、相続税の基礎控除額は相続人が増えると増加します。
最終的な基礎控除額は次の式でも求められるので、節税のために基礎控除額以下に相続財産を抑えたい場合は参考にしてください。
・基礎控除額=3000万円+(相続人の人数×600万円)
孫へのお小遣いに贈与税はかかりますか?
被相続人が健在の場合、お小遣いなど孫にお金や相続財産を渡すと贈与税がかかることがあります。
贈与税がかかるのは1月1日から12月31日までの期間において、被相続人から孫に渡された財産の総額が110万円を超える場合です。
贈与税の税率と控除額は年間の贈与額によって次のように決められています。
贈与額に占める課税額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1000万円以下 | 30% | 90万円 |
1500万円以下 | 40% | 190万円 |
3000万円以下 | 45% | 265万円 |
4500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 646万円 |
贈与額が110万円を超えた場合は申告義務が生じるので、適切に手続きを行う必要があります。
口約束だけで孫が遺産を相続できますか?
被相続人が本気で孫に財産を相続させる意志があり、孫や周囲の親族にそのことを伝えていても、それだけで孫が遺産を相続できるようにはなりません。
遺言書で孫に遺贈することが明確に記されていたり、遺産分割協議で相続人が孫への遺贈を提案し、それが認められないと孫が遺産を受け継ぐのは難しいです。
被相続人が生前に孫を養子縁組した場合は、口約束の有無にかかわらず孫が法定相続分を受け取れるでしょう。
口約束だけでは孫に相続させるのは難しいため、遺言書や養子縁組など具体的な相続対策を行いましょう。
まとめ:孫に財産を相続させたいなら親族の同意を得ることが重要
今回紹介した手法を使えば孫に遺産を相続させることができます。
しかし、相続人の理解を得ずに孫に遺産を引き継がせようとすれば親族から不満が出るのは必至です。
親族が孫の相続を認めない場合、遺言書による相続は困難になり、遺産分割協議では相続人が孫に相続放棄を求めることも考えられます。
遺産分割は相続人全員の同意が基本です。
反発が予想される孫への相続を円滑に行うには、事前に子や配偶者などの親族から同意を得るようにしましょう。
1人では説得が難しい場合は弁護士などの法律家が頼りになります。
本来の相続人に配慮した相続方法を提案するだけなく、家族との話し合いを調整してくれます。
家族信託など法律知識が必要になる場面が多いので、孫に相続させたいなら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。