相続財産管理人の選任が必要になる条件と申し立ての流れ
相続財産管理人(相続財産清算人)は故人の遺産を法律に従って適切に管理してくれますが、どういったケースで必要になるのかよくわからない方も多いでしょう。
そこで今回は相続財産管理人の選任が必要になる条件について解説します。
相続財産管理人が必要不可欠なケースが分かるので、トラブルなく相続放棄したり、相続人以外の人が故人の財産を適切に扱えるようになるでしょう。
さらに、相続財産管理人選任の申し立てをする手順についても詳しくお伝えします。
相続財産管理人とは何か?
相続財産管理人とは相続人が確認できないために故人の遺産を適切に管理できないケースにおいて、代わりに相続財産を適切に扱ってくれる代理人です。
相続財産管理人が選任されることで相続財産が放置されるのを防ぎます。
裁判所によって選ばれた者が相続財産管理人となって財産を管理してくれるので、安心して任せることができます。
被相続人の不動産に関する登記や、預貯金口座の管理、有価証券の売却といった本来相続人にしか認められない手続きの一部を行うことができるため、相続財産に対して柔軟な対応ができます。
相続財産管理人の主な役割は次の3つで、被相続人の財産は最終的に国に引き渡されます。
- 相続財産の分与
- 相続財産からの弁済
- 相続財産を国庫に帰属させる
相続財産管理人は財産の分与や弁済を行い、残った財産が国庫に帰属されると職務を終えます。
相続財産管理人ができること
相続財産管理人は相続人の代わりに被相続人の財産を管理できますが、相続人が財産に対して持つ全ての権利を譲り受けているわけではありません。
相続財産管理人に認められる権限は民法103条に定められており、それ以外の行為を相続財産に対して行う場合は家庭裁判所にその都度許可を申請する必要があります。
民法に定められている相続財産管理人の権限は主に保存行為と管理行為、処分行為の3つに分類されます。
保存行為とは家の修繕などの財産の価値を維持することで、管理行為とは賃料の受領などの財産の管理に該当する行為に該当します。
処分行為は不動産の売却など財産のかたちを変える行為を指します。
それぞれの権限がどのような行為に該当するのか表で確認しましょう。
保存行為 | 管理行為 | 処分行為 |
---|---|---|
建物の修繕不法占拠者への明け渡し請求法定相続登記地役権設定登記請求 | 不動産を賃貸物件として貸し出す賃貸契約賃貸借契約の解除 | 不動産の売却家財道具の売却定期預金の解約債務の弁済定期預金の解約訴訟を起こす |
この他にも相続人や相続財産に関する調査権が認められています。
相続財産管理人の選任が必要になる条件
相続財産管理人は相続人がいない場合に選任される必要があります。
しかし、相続人がいる場合でも必要とされる場合があるので注意が必要です。
どのような条件が成立すると相続財産管理人選任の申し立てが求められるのか確認しましょう。
相続人がいない
被相続人が生涯独身で1人も子供がいない場合など、財産を相続する人が確認できないケースでは相続財産管理人が必要になります。
しかし、子供がいない場合でも相続人が存在することもあるので気をつけましょう。
被相続人の子供以外にも次の血縁者が相続人に該当します。
- 被相続人の子供
- 被相続人の父母
- 被相続人の兄弟姉妹
子供が亡くなっている場合は孫が相続人になります。
父母が亡くなっている場合は祖父母が相続人です。
兄弟姉妹の場合も同様に甥や姪が相続人になることもあります。
血縁関係を追っても相続人が見つからない場合、相続財産を最終的に国庫に帰属させるため、相続財産管理人が選ばれることになります。
相続人全員が相続を放棄している
相続人がいる場合でも全員が相続を放棄した場合は相続財産管理人の選任が必要になります。
相続放棄をした相続人は法律上相続人として扱われなくなるため、全員が相続放棄をすると相続人が1人もいない状況と同じです。
相続人全員が相続放棄するケースは珍しいことではありません。
故人が多額の債務を抱えていた場合、たとえ土地や自宅といった財産を受け取れるとしても、借金が大きすぎて相続を諦める人は大勢います。
借金が原因で相続放棄の連鎖が起きた場合、債権者が相続財産管理人の選任を申し出ることが多いです。
しかし、相続財産を換価しても十分な金額にならない場合や、相続財産管理人への報酬額を差し引くと弁済額がわずかしか残らないこともあります。
こういったケースでは債権者も選任の申出を行わないため、最終的には本来の相続人が申出を行うことになります。
相続財産管理人の選任を行う代表的なケース
相続財産管理人選定の申し立てが行われる代表的なケースを紹介します。
普段の生活であまり耳にすることがない相続財産管理人が、どういった状況で利用されているのか確認しましょう。
具体例を知ることでより相続財産管理人についてよりイメージできるようになります。
債権者が弁済を受けたい場合
故人にお金を貸していた債権者が相続財産から弁済を受けるために、相続財産管理人を選定することがよくあります。
個人よりも貸金業者などの会社が債権回収を目的に申し立てることが多く、本来なら相続人に掛け合うところ、相続人がいない、もしくは確認できないケースで相続財産管理人の選任が行われます。
相続人がいない場合、そのままでは合法的に遺産から貸付金を回収することはできません。
損害賠償請求をするにも相手がいないため、最終手段として相続財産管理人に遺産から弁済してもらうようお願いします。
相続財産管理人の選定が終了すると、債権者は故人に債務があることを管理者に証明することで弁済が受けられます。
特別縁故者が財産を引き継ぐ場合
故人が法定相続人以外に財産を残すことがあります。
遺言書などで相続について明確に記載されている場合、これを無視することはできません。
遺言書に従って適切に遺贈することが求められます。
血縁者以外の相続人は特別縁故者と呼ばれ、相続財産を管理する権利を持ちません。
そのため特別縁故者に対する遺贈は本来の相続人によって行われるのが一般的です。
相続人が1人もいない場合、特別縁故者だけでは財産を受け取ることができないため、相続財産管理人が必要になります。
なお、遺言書で遺言執行者が任命されている場合は、その者による遺贈が行われるため、相続財産管理人の選定は不要です。
相続放棄をする遺族が残った財産を清算する場合
法定相続人が1人残らず相続放棄する場合、遺産を管理する者がいなくなってしまいます。
相続を放棄しても遺産の管理が全て免除されることはありません。
民法940条では相続放棄をした場合でも、相続財産が法律に従って手続きされるまで自身の財産と同じように管理する義務があると定めています。
相続放棄を理由に遺産を放置した場合、あらゆるリスクが生じます。
空き家となった故人の自宅を管理しなければ周辺住民に迷惑をかけるでしょう。
財産を管理しなかったために不動産や有価証券の価値が下落し、債権者の弁済に支障が出た場合は損害賠償請求を起こされる危険性もあります。
こういった問題が生じないように相続人が一人残らず相続放棄した場合は、相続財産管理人の選定を行います。
相続財産管理人の申し立てができる人
相続財産管理人選任の申し立てができるのは利害関係者と検察官に限られます。
検察官はともかく、利害関係者が具体的に誰なのか分かりにくいでしょう。
これから利害関係者に該当する者について詳しく解説するので、申し立てを考えている場合は参考にしてください。
利害関係者
相続財産管理人選任の申出ができるのは基本的に利害関係人に限られます。
利害関係人とは故人の遺産に関して何らかの帰属がある者です。
一般的には相続人が利害関係人に挙げられますが、その他にも先ほど取り上げた特別縁故者などが利害関係者に該当します。
代表的な利害関係者の一覧を紹介しましょう。
- 特別縁故者
- 受遺者
- 相続債務者
- 相続債権者
- 事務管理者
- 担保権者
- 遺言執行者
- 遺産の共有持分権者
事務管理者とは遺産の管理を行っている者のことです。
被相続人の意志にかかわらず、地域の生活インフラや遺産の価値を維持するために自発的に遺産の管理を行っている場合、利害関係者として認められる場合があります。
また、相続債務者のような負の遺産の引き継ぎ手も利害関係者に含まれることに注目してください。
故人に対して債務のある者は相続財産管理人の力を借りて債務を解消させる必要があります。
検察官
相続財産管理人の選任は故人と直接の利害関係にない者にも認められる場合があります。
その代表例が検察官です。
検察官は経済的もしくは公益の観点から価値の高いと判断された、利害関係者のいない遺産を管理します。
利害関係者がおらず、このまま放置されると価値が毀損する遺産を、相続財産管理人に依頼して適切に扱うことが検察官による申し立ての目的です。
検察官が相続財産管理人の選任を行う場合、相続財産は通常よりも早い段階で国庫に返納されることがあります。
相続財産管理人には誰が選ばれるのか?
ここまでは相続財産管理人選任の申し立てを誰がするのかについて詳しく解説してきました。
この項目では誰が相続財産管理人に選ばれるのかお伝えします。
相続財産管理人は家庭裁判所で選ばれますが、選定に際して決められた基準や規則はありません。
しかし、債権者への弁済や換価処分といった重要な手続きを行うため、相続財産の管理に精通している者でなければ相続財産管理人は務まりません。
また、場合によっては地域特有の事情を考慮する必要もあると言われています。
このように相続財産を適切に扱うには幅広い専門知識と経験が必要です。
その点を考慮して、相続財産管理人は地元の弁護士や司法書士が選ばれる傾向があります。
家庭裁判所によっては保有する候補者リストから選び出すこともあるようです。
相続財産管理人を選任するまでの流れ
初めて相続財産管理人選任の申し立てを行う人のために手続きの流れを解説します。
書類の準備や作成にかかる負担が大きいので、必要書類の詳細や申請先を確認しておきましょう。
この項目の内容を難しいと感じたら弁護士に一任するのも手段の一つです。
必要書類を用意する
必要になる書類は相続人の状況や、相続放棄の有無、申立人と被相続人との関係など様々な要素によって大きく異なります。
まずは全てのケースで必要になる書類について確認しましょう。
- 故人の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 故人の全戸籍謄本
- 故人の父母の全戸籍謄本
- 故人の直系尊属の死亡記録がある戸籍謄本
- 不動産登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 預貯金や有価証券の残高が分かる書類(通帳の写し、残高証明書等)
- 故人が相続した財産の内容が分かる資料(不動産登記事項証明書など)
上に挙げた資料の多くは市町村役場で請求できます。
不動産登記事項証明書はお住いの地域を管轄している法務局の窓口に足を運んで申請しましょう。
次は状況に応じて必要になる書類についても見ていきます。
ご自身の状況に当てはまるものがないか確認してください。
状況 | 必要書類 |
---|---|
故人の兄弟姉妹が死亡しいてる | その兄弟姉妹の全戸籍謄本 |
故人の子供が死亡している | その子供の全戸籍謄本 |
代襲者の甥または姪が死亡している | その甥または姪の全戸籍謄本 |
相続放棄した相続人がいる | 相続放棄申述受理証明書 |
廃除された相続人がいる | 廃除の記録が記載された戸籍謄本 |
故人と申立人が親族である | 戸籍謄本など親族関係を証明できる書類 |
申立人が一方当事者である | 故人との関係を示す契約書 |
申立人が特別縁故者 | 故人との関係を示す資料 |
申立人が法人 | 資格証明書(会社登記簿謄本) |
選任の申し立てをする
申立書を作成し、必要書類が揃ったら選任の申し立てをします。
申立先は故人が最後に住んでいた地域を管轄している家庭裁判所です。
書類を家庭裁判所に提出してください。
前述したとおり、選任の申し立てができるのは故人と法律上の利害関係にある者に限られます。
申し立てをする際は、自分が利害関係人に該当するのか専門家に確認してもらいましょう。
利害関係人になれず、探しても見つからない場合は行政機関か地方公共団体の長に申し立てをお願いできないか検討してみてください。
故人の財産が地域住民の生活環境に悪影響を及ぼしている場合、地方公共団体の長は家庭裁判所に選任の申し立てができます。
遺産が相続財産管理人の報酬に不十分な場合は、報酬額を確保するために予納金を支払うよう求められるので準備しておきましょう。
予納金の相場は10万円~100万円ほどです。
この他にも収入印紙、官報公告費用などの支払いが必要になります。
家庭裁判所で審理が行われる
家庭裁判所が選任の申し立てを受理すると、申請内容を精査して相続財産管理人の選任が妥当かどうか審理が行われます。
審理中は家庭裁判所から提出した書類について質問されたり、より詳細な調査をするために新たな書類を求められることがあるので注意してください。
連絡先として携帯電話の番号を伝え、裁判所の要請に迅速に応じられるようにしましょう。
事実関係を確認するために故人の血縁者にも裁判所からの問い合わせを受ける可能性があります。
事前に連絡しておきましょう。
相続財産管理人が選ばれる
審査が終了し、相続財産管理人の選任が妥当であると判断された場合、裁判所が適切だと判断した人物が相続財産管理人として選ばれます。
選考では故人との関係性について詳しく調査されます。
借金や相続などに絡んだ利害関係や、遺産の内容などを考慮しながら、公平な遺産管理ができる人物かどうか評価します。
管理に専門的な法律知識が必要なケースでは弁護士や司法書士といった法律家が選ばれることもあります。
相続財産管理人が決まるまでにかかる時間は申し立てから2ヶ月ほどです。
相続財産管理人が選任された後の流れ
ここからは相続財産管理人が選任された後の流れについて見ていきましょう。
管理人が決定しても、即座に遺産の管理が行われるわけではありません。
選任の公告といった手続きを経る必要があります。
いたずらに焦らないよう、選任後の手続きを確認しておきましょう。
相続人に選任の公告する
相続財産管理人が選ばれると、そのことが相続人に伝わるよう広く告知します。
遺産の管理は本来なら相続人が行うものであるため、管理業務を開始する前に間違いなく相続人がいないことを確認する目的で公告を行います。
公告から一定期間内に相続人が現れて、遺産を相続する手続きを行った場合、相続財産管理人は代理権を失効し、全ての管理業務を終えます。
相続人の相続承認を受け入れる期間は長く、最低でも6ヶ月とされています。
相続財産の調査し管理する
相続財産管理人が最初に行う業務は、相続財産全ての目録を作成することです。
遺産を管理するために遺産の内容を正確に把握するところから始めます。
目録を作成することで財産の一覧を確認できるので、財産の内容を把握しやすくなります。
時価評価額も記録されるため、換金性の高い財産がどれか人目で分かるようになるメリットもあります。
さらに、目録を作ることで財産の状態を確認することもできます。
財産を所有することで必要になる手続きについても把握できるようになるでしょう。
財産の価値が毀損されるのを防いでくれます。
債権者と受遺者に選任を知らせる
相続人だけでなく故人と利害関係にある債権者と受遺者に対しても選任について通知します。
民放でも952条において、全ての相続債務者および受遺者に請求の申し出をするよう告知する旨が定められています。
この告知は不特定多数の債権者と受遺者に対して行われます。
告知方法は官報に掲載する手法を採用するのが一般的です。
弁済の請求を受け付ける期間は2ヶ月以上とされており、請求を受け付ける期間と期間が過ぎたら弁済を受けられなくなることも一緒に告知される必要があります。
弁済が行われる
選任公告と相続人捜索公告の期間が過ぎても相続人が現れなかった場合は、弁済申出の公告期間中に弁済の申請を申し出た債権者に対して弁済が行われます。
以前は弁済業務が開始されるまで申し立てから10ヵ月以上も待つ必要がありましたが、現在は法改正が行われて最短6ヶ月で弁済が始まるようになりました。
相続財産管理人による弁済が始まるのは相続財産の換価が完了した後です。
債権者は担保の有無などで弁済の優先度が決められ、優先度の高い債権者から弁済手続きが行われます。
特別縁故者に財産を分配する
弁済業務の後は特別縁故者への財産分与が始まります。
特別縁故者が分与を受けるためには公告期間が完了してから3ヶ月以内に、家庭裁判所で適切な手続きで分与の請求を行う必要があります。
家庭裁判所は故人と特別縁故者の関係性を調べて、分与が妥当かどうか審査します。
その結果、分与が適切だと認められると、相続財産の全て、または一部を特別縁故者に渡します。
特別縁故者に対する分与業務が終わると、残った相続財産を国庫に帰属させる手続きを行います。
最後に家庭裁判所に対して管理終了報告を提出して管理業務を終えます。
相続財産管理人選任の申出を依頼できる法律家
相続財産管理人選任の申し出には数多くの書類を用意する必要があります。
相続人の状況により必要になる書類が異なるため、手続きを迅速かつ正確に行うためには専門的な知識が欠かせません。
時間のかかる相続財産管理人の選定を可能な限り短時間で行うためにも、頼れる法律家を紹介しましょう。
弁護士
相続財産管理人の選任を考えている場合、まずは弁護士に話をしてみてください。
法律知識に詳しいプロフェッショナルであるため、目的に合わせて様々な手段を提示してくれます。
場合によっては相続財産管理人の選任を申し出るよりも安く早く問題が解決するでしょう。
財産を特定の人に残したいケースでは、養子縁組などで時間をかけずに要望をかなえてくれることもあります。
依頼者の代理人として裁判所で手続きしてくれる点も見逃せないメリットです。
専門家に任せられるので、仕事に集中できます。
司法書士
相続に関する手続きでお世話になることが多い家庭裁判所と強いつながりを持つのが司法書士です。
成年後見人の選定などで家庭裁判所と仕事をすることが多いため、やり取りを密にできます。
また、相続財産管理人の選任の他にも相続放棄申述といった相続に関する手続きにおいてサポートしてくれるでしょう。
法律関係の書類を作成するプロフェッショナルでもあるため、書類の準備で苦労する相続財産管理人選任の申し出では活躍が期待できます。
まとめ:相続財産管理人選任の申し立ては法律家のサポートのもと確実に行いたい
相続財産管理人の選任が必要になるのは相続人がいない場合です。
相続人がいない相続財産は弁済と遺贈の後、国庫に帰属させることが法律で定められているため、相続人が確認できないケースでは相続財産管理人を選任して必要な手続きを依頼します。
選任の申出ができるのは故人と利害関係のある者に限られます。
申出には数多くの書類が必要となり、相続人の状況次第で用意する書類が変わるため、弁護士や司法書士といった法律家の力を借りることをおすすめします。
相続財産管理人の選任は最低でも6ヶ月以上かかる負担の大きな手続きです。
専門知識を持つ弁護士や司法書士のサポートを受けて、仕事や私生活に支障がでないようにしましょう。