奨学金の返済が難しくなるケースは少なくありません。

借金返済を免除してもらうには債務整理をするのが一般的ですが、奨学金の債務整理は難しいという話をよく耳にします。

そこで今回は奨学金を債務整理できるケースについて解説します。

結論から言えば、奨学金の債務整理は可能です。しかし、期待していたような効果が得られない場合がよくあります。

なぜ債務整理は効果的ではないのか、どうすれば奨学金の借金に対処できるのか解説していくので、ぜひ参考にしてください。

奨学金の債務整理が難しい理由

奨学金の債務整理には様々な困難が伴います。奨学金という性格上、債務整理を認めてもらいにくい事情があるので、その点をこの項目で詳しく解説していきます。

借入やカードローンのような一般的な借金と奨学金の違いを確認して、返済計画に役立ててください。

債権者が債務整理の交渉に消極的

一般的な借金の場合、債務整理を行うと債権者は元本だけでも確保しようとするため、利息や遅延損害金の支払いを免除してくれることがあります。しかし、奨学金の場合は債権者が利息や延滞金の免除に消極的です。

奨学金の債権者は日本学生支援機構になることが多いのですが、この組織は契約条件を厳守することにこだわります。金利の変更などの返済条件の変更は多くの場合、認めてくれません。

また、一部の奨学金は利息の免除が法律で禁止されています。これでは、どんな手段に訴えても返済額を減らせないでしょう。法律の後ろ盾があるケースでは債権者は強気です。

債務整理をする場合、手ごわい債権者を相手にすることになるでしょう。

債務整理が効果的じゃない場合がある

債務整理には借金の利息を減らすタイプと元本を削減するタイプ、元本と利息の支払いを免責するタイプがあります。このうち利息の削減を目的とした債務整理は奨学金の返済負担を効果的に減らすことができません。

奨学金の多くは20代・30代が返済しやすいように低い金利が設定されています。そのため債務整理をしても減らせる利息はほとんどありません。利息削減タイプの債務整理だけでは奨学金の返済にかかる負担を軽くすることはできないでしょう。

また、無利息の奨学金を借りていた場合、利息を減らすことを目的とした債務整理ではほとんど効果を感じられないケースもあります。

効果的に債務整理するには法律と奨学金について詳しく知っている必要があるでしょう。

借金トラブルに連帯保証人を巻き込んでしまう

連帯保証人は奨学金の債務整理を難しくさせる要素のひとつです。奨学金を受けるには連帯保証人が必要になります。債務整理をすると連帯保証人が借金の肩代わりを求められるため、考え無しに申請することはできません。

連帯保証人は両親のどちらかがなる場合が多いですが、借金の返済を自分ですることを条件に奨学金を借りていた場合は、親との関係性が悪化する可能性があります。

親戚が保証人になっていた場合は説明を求められたり、契約者の財産を差し押さえるよう裁判を起こされることもあるでしょう。

保証人がいる場合、債務整理が認められても借金が消えるわけではありません。保証人・連帯保証人が求められる奨学金の債務整理をトラブル無く進めるのは難しいです。

裁判所が認めてくれないことが珍しくない

債務整理の中には裁判所が借金の免責や減額を認める審判を下さないと効果を発揮できないものがあります。

借金の免責や減額で重要なのは返済が難しいことを裁判官に認めてもらうことです。債務整理は家計の状況から判断して返済が難しい場合に、借金問題を解消して申請者の生活を再建することを目的としています。そのため、返済の負担が極めて軽く、返済を助ける仕組みも充実している奨学金の免責や減額は認めてくれない傾向にあります。

とくに日本学生支援機構が提供している奨学金については免責が難しいと言われているため、奨学金によっては債務整理以外の方法で返済問題の解決を目指すことになるでしょう。

奨学金を踏み倒すことは難しい

借金を踏み倒しても刑事罰の対象にならないため、なんとか奨学金を踏み倒せないか考える人は少なくないでしょう。

しかし奨学金を踏み倒すことは事実上不可能です。多くの奨学金を管理している日本学生支援機構は様々な方法を用いて返済をするよう迫ってきます。代表的な回収方法を紹介しましょう。

  • 返済通知や督促
  • 電話による返済日の連絡
  • 内容証明郵便による督促
  • 差し押さえ
  • 保証人への通知
  • 個人信用情報に借金延滞の情報を加える

保証人に延滞のことを通知されるため、両親や親族から事情を詳しく話すよう求められます。債権者からの督促を無視するだけでは奨学金を踏み倒すことはできないでしょう。

それでも無視し続けてた場合は財産の差し押さえがあります。差し押さえの対象になる財産が無い場合は将来に取得が見込める財産について差し押さえが行われることもあり、債権者が回収を諦めるまで差し押さえは続きます。

奨学金トラブルを解消するのに最適な債務整理はどれか?

債務整理には任意整理と個人再生、自己破産があり、それぞれメリットとデメリットが異なります。

いずれの手法も奨学金の債務整理に利用できますが、奨学金は他の借金とは性質が違うため相性が悪いものは返済の負担軽減につながりません。

どの手法を用いて債務整理すべきなのか解説しましょう。

奨学金と相性の悪い任意整理

任意整理は奨学金との相性が悪く、利用しても思うように借金の負担を減らせません。

任意整理は裁判所を介すことなく債権者と直接交渉して返済額を減らすことを目標とします。多くは利息の支払いを免除するよう債権者とやり取りするのですが、奨学金の返済ではこれが問題になります。

金利が高くても1%未満である奨学金の場合、元々少ない利息を削ることになるので残った借金をほとんど減らせません。

相手の合意がないと借金を減らせない任意整理の特徴も問題です。奨学金の債権者になることが多い日本学生支援機構は利用者間で対応に差が生じることを避けるため、特定の利用者だけに借金の減額を認めることはしません。そのため利息も含めて借金の減額に応じることは稀です。

交渉相手が借金の減額に極めて否定的で、成功してもわずかしか借金を減らせない任意整理と奨学金の相性は良くありません。

大幅に借金を減らせることもある個人再生

個人再生は借金の内容によって元本を5分の1から10分の1まで減らせる債務整理で、大幅に残債を減らせるところが魅力の債務整理手法です。

最低限返済すべき金額が残債によって決められており、これを残債から差し引くことで新たな総返済額が決まります。最低返済額は借金の金額が大きいほど高くなるため、奨学金が高額な場合ほど減額が期待できます。

しかし、奨学金の個人再生には落とし穴があるので注意が必要です。奨学金を個人再生すると、債権者は減額された分の借金を保証人に請求します。多くの場合、家族や親族が代わりに返済することになるため、気軽に利用できるものではありません。

奨学金の借金を大きく減らせる可能性がある個人再生は魅力的ですが、利用する際は保証人の問題に対処する必要があります。

奨学金以外の借金も全て免除される自己破産

自己破産は借金の返済を全額免除できる切り札のような債務整理です。裁判で奨学金の支払いについて免責を認めてもらう必要がありますが、元本はもちろん利息と遅延損害金の支払いからも解放されます。

メリットばかりのように思えますが、自己破産が認められるには次の2つの条件を満たす必要があるため簡単ではありません。

  • 借金の返済が不可能である
  • 免責不許可事由に当たる行為をしていない

奨学金を対象にした自己破産で問題になるのは返済が不可能であることを証明することです。奨学金には返済が難しい利用者のために返済猶予などの支援制度があるため、返済できないと裁判所に主張しても納得してもらえません。

支払い能力が低いことをアピールできる見込みがあるなら、自己破産は返済の負担を減らす効果的な手段になるでしょう。

奨学金を債務整理して借金を解消できた事例

40代の男性Aさんは学生時代に約400万円の奨学金を借りました。大学を卒業して会社に入るとすぐに返済を始め、最初の5年間はコンスタントに月1万円~2万円ずつ返済。

しかし、体の調子が突然悪くなり、それまでのようには働けない状態に陥ります。Aさんは仕事を辞めざるをえず、その後は十分な収入を得られる仕事に就けません。

それでも奨学金の返済は続き、Aさんは支払うために消費者金融に手を出します。それから借金は雪だるま式に増え、最終的には総額800万円に達したそうです。 600万円もの借金を新たに負ったにもかかわらず、奨学金は200万円残っていました。

自分では対処できなくなったAさんは法テラスに相談します。そこで自己破産を勧められ、指示に従い弁護士に手続きを一任。8ヶ月後には借金800万円の免責が決まりました。

Aさんは自己破産の手続きを弁護士に依頼しましたが、消費者金融の借金をひとつにまとめるなどの細かな手続きのいくつかは自分で行ったそうです。

保証人は両親でしたが疎遠だったため、Aさんは知り合いから両親が免責された分を支払ったことを聞きました。

奨学金を債務整理できない場合の対処法

奨学金が返済できない場合に取れる手段は債務整理だけではありません。

借金を無くす以外にも返済の負担を減らす方法は複数あるので、ここで紹介しましょう。

生活再建に役立つ対処法を取り上げるので、活用できないか検討してみてください。

減額返還制度で月々の支払いを減らす

月々の支払いを減らしてもらえば返済を続けられる場合に利用したいのが減額返還制度です。

減額返還制度によって月々の返済額は最大50%になります。奨学金の平均返済額は月14,000円ほどですから、月7,000円まで減る場合もあるでしょう。

減額幅は利用者の経済状況や家族構成(扶養家族の人数)、その他の特別な事情によって決まります。特別な事情には自然災害に被災したり、病気や怪我が該当します。

年間の申請件数が3万件を超えるなど幅広く利用されている制度なので、比較的気軽に申請できるところも魅力です。

ただし、減額されるのは月々の支払い額のみで、元本は増減しません。

返還免除制度で支払いを免除してもらう

返還免除制度は奨学金の返済が一部または全額免除される制度です。こちらも減額返還制度と同様に日本学生支援機構が管理しています。

任意整理の交渉で利息の免除すら渋る日本学生支援機構ですが、返還免除制度では借金の大幅免除を認めてくれます。しかし、誰でも使えるものではありません。健康に深刻な問題を抱えている利用者だけが対象です。仕事で怪我をした、パワハラを受けて精神に大きな傷を負ったなど、仕事が長期間できない状況にならないと申請しても認められません。

利用者が死亡した場合にも申請できますが、この場合は保証人が返済から免れる目的で利用されることが多いです。

返還免除制度の審査において何が判断基準になるのかは明らかになっていません。この制度を利用する場合は、申請前に日本学生支援機構の担当者とよく相談することをおすすめします。

返還期限猶予制度で返済期限を変更する

返還期限猶予制度は奨学金の返済期限を後にずらすことで、一時的に返済を免れる制度です。適用できれば最大10年間まで返済期限を延期できます。猶予期間中は借金を返済しなくても罰則金はありません。

ただし、返済期限が更新されるだけで、それ以外の効果はありません。元本はそのままですし、利息もこれまでと同様に請求されます。そのため、この制度を利用する場合は、家計の立て直しを本気でやる必要があるでしょう。収入を増やすだけでなく出費を抑えて返済能力を高めないと、猶予期間が過ぎたら返済問題が再燃します。

他にも、この制度は遅延損害金を回避したい場合に有効です。出費が続いて奨学金の返済が難しい場合に活用することで罰則金を回避できます。

奨学金返還支援制度と任意整理を併用する

任意整理は奨学金と相性が悪く、借金の減額にはつながりにくいです。しかし、奨学金支援制度と組み合わせると、間接的に月々の支払額を効果的に減らせることがあります。

奨学金の返済で苦しんでいる人の中には多重債務者もいます。そんな時は任意整理で奨学金以外の借金を減らして、奨学金については奨学金返還支援制度を利用して元本を削減できます。

奨学金返還制度は地方公共団体や企業によって運営されており、一部ですが利用者に代わって奨学金を返済してくれます。保証人に迷惑をかけることなく奨学金の元本を減らせるため、債務整理よりも使い勝手がいいです。

難点は利用できる人数が限られていることと、制度を提供している自治体の管轄地域に移住する必要があるなどの条件があることです。利用の際は公式サイトで公開されている条件をよく読みましょう。

返済できない場合に備えて無利子の奨学金を利用する

経済的に余裕がなく将来的に返済できない状況になることが予想される場合は無利子の奨学金を検討するのもいいでしょう。借金トラブルが起こる原因を始めから取り除いておけば、必ずしも効果的でない債務整理に頼らなくてすみます。

無利子の奨学金の代表は所得連動返還型無利子奨学制度です。経済的な余裕が無いために学べない若者のために設けられた制度で、返還のことを心配することなく利用できます。

問題は厳しい審査がある点です。第一種奨学金を利用している者しか申請できず、申請しても選考で選ばれる必要があります。

選ばれても、1年ごとに制度を継続して利用すべきか審査があるため、利用中は大きなプレッシャーを感じるでしょう。

奨学金の債務整理で失敗しないためのポイント

奨学金の債務整理には保証人の問題をはじめ数多くの落とし穴があります。トラブルを引き起こさないために債務整理において気をつけるべきポイントを解説しましょう。注意点を確認しておくことで、より円滑に奨学金を債務整理できます。

借金を返済できないことを証明できるようにする

債務整理を成功させる鍵となるのは、借金の返済が非常に困難であることを適切な根拠をもとに主張することです。任意整理では債権者に、自己破産や個人再生では裁判所に奨学金の返済を続けると生活が成り立たなくなることを伝え、証明しなくてはいけません。

主張に説得力を持たせるために証拠を集めましょう。有効な証拠として次のものが利用されます。

  • 給与明細
  • 家計簿
  • 借入残高証明書や返済計画書
  • 預金通帳の写しや不動産の登記簿謄本
  • 医療機関の領収書や医療費通知書

免責不許可事由に該当しないようにする

免責不許可事由に該当する行為をしてしまうと、債務整理による奨学金の解消は困難になります。

債務整理を成功させるために行ったことが免責不許可事由と判断される場合もあるので、注意すべき行為を確認しておきましょう。

代表的な免責不許可事由を確認してください。

  • ギャンブルが浪費のために借金をする
  • 財産を隠す
  • 特定の債権者だけ優遇する
  • 収入などの重要な情報を偽る

この他にもクレジットカードの現金化など、お金に困った際にやってしまう行動が免責不許可事由に該当することもあるので気をつけましょう。

連帯保証人に迷惑をかけたくない場合は任意整理を検討する

親族が連帯保証人になることが多い奨学金において、連帯保証人に多額の返済を押し付けるのは避けたいところです。奨学金の債務整理が原因で家族と距離ができたら、その後の生活再建に影響が出る可能性があります。

少しだけ返済額が減れば問題無く返していける場合は、残債が高額でも任意整理で解決できないか検討してみましょう。任意整理でも債権者は減額分を保証人に請求しますが、少額であるため親族にかかる負担は軽いです。事前に相談しておけば快く立て替えてくれる場合もあるでしょう。

先ほど解説したとおり、複数の借金がある場合は奨学金を除外した任意整理も効果的です。 

回収される資産があるか確認する

自己破産か個人再生を利用する場合は、回収される可能性がある財産をリストアップしておきましょう。

債務整理では最初に借金返済のための財産管理(管財)が行われます。申請者の財産を調べ、借金返済に当てられるものがあれば換金され債権者に配分されます。

自己破産の管財で自宅や車が回収対象になることは広く知られていますが、それ以外にも高価な家具や生命保険なども対象になる場合があります。弁護士などに相談しながら、管財の対象になりそうな財産がどれか調べておきましょう。そうすることで任意整理の生活における影響を抑えられます。

奨学金の債務整理に関するよくある質問

奨学金の債務整理は一癖ある手続きです。借金の減額は大きな関心事ですが、それ以外にも注意すべきことはいくつもあります。

これから、奨学金の債務整理についてよくある質問を紹介していくので、債務整理でつまずかないように確認してください。

親が勝手に契約した奨学金でも返済する必要がありますか?

本人が契約していない奨学金の返済義務を負わされることはありません。返済の責任があるのは奨学金の契約者によって次のように決まります。

契約者返済義務のある者
本人(未成年)なし(契約無効)

契約者が親の場合は返済していくのは親になります。本人は一切関与していないため、親が返せなくなっても返済を請求されることはありません。

本人が未成年の場合は親が子供の名義で奨学金を借りることがあります。本人の同意が無いままに契約が結ばれていたなら、契約は無効になることが多いです。契約内容によっては返済義務が発生することもあるので、法律家に相談するのが賢明な判断です。

【中見出し】奨学金を債務整理すると信用情報に傷がつきますか?

奨学金を債務整理するとブラックリスト入りするため信用情報に傷がつきます。

一般的な債務整理では過払い金で残債を相殺できるとブラックリストからすぐに除外されることもあります。しかし、奨学金は1%以下の金利で貸し出されていることが多いため、過払い金は発生しません。債務整理を行えばブラックリストに登録されるのは間違いないでしょう。

ブラックリストの期間は債務整理の手法によって異なり、任意整理なら約5年、個人再生と自己破産なら10年です。

奨学金を債務整理した後は奨学金が受けられなくなりますか?

奨学金の債務整理を行うとブラックリストに登録されるため、新規の借金は極めて困難になります。

担保付きのローンなど一部の借金は利用できる可能性がありますが、奨学金に関しては申請しても審査に落ちます。

奨学金の審査では支払い能力を評価するために申請者の家族の収入や資産が調査されます。ブラックリストに入っていると、それだけで支払い能力が無いと判断されるため、審査をパスできる見込みはありません。

債務整理をしたら奨学金は受けられなくなるでしょう。

まとめ:奨学金の債務整理は効果を確認してからでも遅くない

奨学金の返済に困って債務整理をする場合は、どれだけ借金を減らせるか確認しましょう。

奨学金は金利が極めて低いため、任意整理をしても減らせる金額が限られます。自己破産や個人再生は借金を大幅に削減したり、返済の免責を受けられますが、保証人である親族が代わりに返済することになります。

債務整理の効果を実感できない場合が少なくないため、申請の判断は冷静に行ってください。弁護士などの法律家と相談して効果を確認してから手続きを進めることをおすすめします。

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